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バレンタインズ・アフタデイ(五月発行予定新刊)

五月発行予定新刊です。

ひじちづバレンタインSSL

No Chocolate.
No Handmade thing.
And a time is over.
oh, Very good.

"Now, Is this a state of emergency for all of the girl?"

So what?
2/15 AM 8:30

「ちっづるー!」
角を曲がったとおりの向こうから軽快な足音が駆けてくる。ぶんぶんと車道を挟んで、反対側の歩道から手を振る平助は、ちょっと左右を確認して、車道に車の気配がないと思うと歩道の手すりに手をかけて車道に飛び降りた。すとんと着地と同時に走って三秒後には千鶴がいる手すりに手をかけ、ひょいっと軽く乗り越える。
「昨日はありがとうな、チョコ」
満面の笑顔で笑った平助は、にこにこ笑う千鶴の頭を一つ撫でる。
「喜んでもらえて良かった。手作りは久しぶりだったから心配だったの。変な味しなかったかな?」
「みんな美味しかったよ、心配すんなって」
平助の裏表のない声を聞いて、くしゃっと千鶴が嬉しそうに笑う。嘘もお世辞も平助の言葉にはみんな表れてしまうから、千鶴はほっとして平助にありがとう、嬉しいと言葉を返した。
その小さな肩が叩かれると、こちらは朝起きたときから仏頂面の兄が居る。
「で、他に用件は?」
「や、特にないけど」
「そう、じゃあ俺たち急ぐから。千鶴。行くよ」
「薫待って、薫……!ごめんね、なんか朝練があるらしくって」
そういってばたばたと小走りで校内でも有名な双子二人は過ぎ去った。
チョコの礼もかねて、一緒に登校しよう、と早起きしてきた平助にとってはまるで嵐がごとく。
「……んー仲が良いのも良いけどさ、千鶴。嫁行くとき大変だろうなあ」
もちろん、土方さんが。
胸の中の言葉は情けで出さないことにする。もちろん土方じゃなく千鶴への気遣いと優しさである。







慶応四年 如月 一四
室内にいても冷える過ぎるほどに空気は冷たくて、ほうと息を吐けば白くくもる。
ことんと冷えすぎるほどに冷えた窓硝子に頭を預けると、透明な板が千鶴の影を半透明に映していた。その姿が、千鶴の吐き出す吐息に白く曇る。
硝子のはまる屋内にはとんと縁がなかった千鶴は、西洋風のつくりの色んな事がいちいち珍しい。窓硝子が曇るのも、障子ではなくかあてんなるもので窓硝子を仕切るのも。
曇った表面にほっそりした指が触れると、そこだけもとの透明さを取り戻す。指先はたちまち冷えて痛いほどだ。すぐにつま先が真っ赤なった。
北国の夜は、闇の中でも雪明かりでことさら明るい。雪雲が席巻する日などはかがり火が一つ二つとあるだけで、橙色の灯りが、温かそうな色合いでぼんやりと辺りを照らす。
今もまた、小卓に置いた洋燈が、板張りの床を照らす。板の目にくぼみを落として少し歪んだ千鶴の小柄な人影が、そこには一つあるだけだ。

――行軍には唯一の救いだな。灯りが乏しくても敵影に気付く。

極寒の寒さの中、雪にいくども足下をとられ、雪と泥まみれになり、寒さに凍え死にそうになりながらも土方は戦の利点を探していた。
ちょうど雪原での戦にも慣れてきた頃合いだったらしく、初めて迎える雪の過酷さに歯を食いしばりながら戦いの指揮を執っている。
仙台に千鶴が居た間に、城を落とし藩を併呑し、函館を選挙をして国をつくったと彼らは言う。
しかし、見渡せば欠けている面々をぽろりぽろりと見つけるに付け、言葉とは裏腹にそこには千鶴に思いもよらない壮絶な戦いがあったのだろうと伺わせた。


ふるさと、家族、両親、妻、子ども、友人たち。本土に残してきたかなしみは数限りなく、それを慕って隊を脱走するものも少なくはなかった。そして、箱館軍はあえてそれを追わず、見つからないかぎりは厳しい咎を与えなかった。脱走兵を追える兵力があれば軍備に回さなければならなかったし、何より土方はそれを嫌った。
――鉄の掟はもういらねえ。
「武士を育てるにゃ男の血、懐かしむやつらにゃ女の乳が必要なんだろうよ」
「つまり土方君には君が大切に大切にかわいがっているお小姓さんがいるから特に乳は必要なぶわっ」
寝椅子に落っことされていたくっしょんという名の座布団(千鶴には違いがよく分からない)を大きく振りかぶって第一球。見事顔面に直撃。
「よっぽど命がいらねえようだな陸軍奉行さんよ……」
「いやあだって本当のことだし今更って感じがあってもうみんな……待った、待った、待ちたまえ土方君、冷静になろうじゃないか、僕らは朋友だそうだろう、冷静に……室内抜刀禁止!!!!」
「じゃあその減らず口、針と糸で今すぐ縫い付けてやるよ……!」
「馬鹿な、僕の口が縫い付けられたら『陸軍奉行並と御小姓さんを陰に日向に見守り隊』の指揮が落ちるだろう、基地の三分の二がすでに隊員なんだよ……!?」
「壊滅しろそんな隊!!」
ぽんぽんと威勢の良い馬鹿なやりとりに、くすくすと笑いながら在りし日の隊内のことを思い浮かべ、千鶴はそっと視線を伏せる。
卓の上では地図や海図、糧食の貯蓄量などの資料が大きく広げられ、壮大な馬鹿話と同時進行で、せわしなく二人の間では軍議が進められている。ふざけてはいるが、これは今後の趨勢を決める重要な首脳会談だ。
もちろん極秘に、とのことで千鶴は席を外そうとしたが、二人の身の回りの世話をするものが居なくなるからと言って、土方が構わない、と千鶴を同席させ、大鳥も当然のように了承した。
止まない口げんかと大まじめな手元の群議の資料のやりとりに、千鶴は半ば呆れながらも、二人をねぎらうため熱いお茶を淹れに席を立った。
実際、二人の激務については千鶴が一番よく知っている。
「千鶴」
「はい?」
お茶菓子の注文だろうかと千鶴は振り返って、卓上を睨んだままの土方の背中を見つめる。
「お前の茶ももってこい。休憩するぞ……全く、らちがあかねえぞ大鳥さん」
「それはこっちの台詞だよ」
どうやら会話の切れ目が仕事の切れ目のようだった。
「お疲れ様です、お茶を置く場所くらい、片付けておいて下さいね」
苦笑しながら手早く、渋めに淹れた熱い緑茶をお言葉に甘えて三人分、盆において持って行く。戻ってみると見事に重要書類が適当に寄せられて、場所が空いていた。後で整理するのを手伝うしかないだろうと予定を少々修正して、おおざっぱなのか器が大きいのか、そんな上司達に湯気の立つ緑茶を進呈する。
まず客であり上座に座る大鳥に、次に次席の土方の前に。千鶴は自分の膝の上で小さな茶碗を温めた。
渋く入れた茶がいっそう身にしみて、骨まで温まるようだ。どんなに暖炉に薪を淹れても防げる寒さではない。
なるほど、新政府軍が攻めてこないわけだ。ちらりと思考がそんなことを思ったりした途端、大鳥に呼ばれて首を向ける。
「なんです?」
と、口を開けたとき、何か小さい、黒いかけらがぽんと放り込まれた。
目を白黒した千鶴が慌てて唇を押さえると、お菓子だよ、と大鳥が楽しそうに笑う。
「疲れたときには甘いもの。お父上が医師の君なら知っているだろう?」
そういう大鳥も数々の遊学の中で蘭学、蘭学医を修めていたはずだ。
お茶で熱くなった口の中、とろりと溶ける甘い甘い。
「ショコラッテって言うんだって。土方君もどうぞ」
上品な和紙の中に小さな黒い、餡を硬く固めたようなものが点々と並んでいる。
「……甘いにも限度があるぞ」
一口口にした土方は、わずかに顔をしかめたが、嫌いではないらしい様子が分かる。ただ、一つで十分、と言うことだそうだ。確かに千鶴には丁度いいが、大人の男の人には甘すぎるかも知れない。
それを見た大鳥が笑って、渡来品だろう高価なお菓子を千鶴に進めた。
「僕も同意見だ。これもまた、渡来の話なんだけれど、二月十四日は引き裂かれる運命にあった恋人を祝福し、結婚させた聖人が、その罪に問われて処刑された日なんだそうで、男性から女性へ、恋人、夫婦同士で贈り物をする習慣があるらしい」
「……それをなんであんたが俺の小姓に進めるのか聞いても良いかい?大鳥さん」
「甲斐性無しな部下に代わって、君のツケで買ってみた。さあ、雪村君。これは全部君のもの、彼からの贈り物だよ」
「……おい、大鳥さん。ちょっと後で五稜郭裏で話を付けたいことがあるんだが」
「寒いから嫌だよ」
土方の言葉を一刀両断、千鶴に小さな箱を大鳥はおかしそうに笑って手渡す。
一片が三つの四角の箱、九つの甘いお菓子。
真っ赤になって綺麗な和紙で包装された箱をそのまま受け取って固まった千鶴ははわはわと視線をさまよわせたが、最終的に困ったように土方を見上げる。いいのでしょうか、と捨てられた子犬のような目で、しっぽのような髪をたらして。
盛大なため息をついて、ったく、とぐしゃりと土方が千鶴の髪をくしゃりと撫でる。
「いるんだったら持ってけ」
大鳥を経由してはいるが、紛れもなくこれは土方からの。恋人や夫婦が、男性が、恋を告げる贈り物を。
「…………………はい」
白い肌を薔薇色にほわりと染めて、千鶴は大切に両手で、箱を受け取った。







2/15 AM 10:45

「ちーづるちゃん?」
「……ひえっふえ?あれ?おきたさ……齋藤さんも?」
「また白昼夢でも見ていたか?」
「……ええ。いつもの他愛ない。夢でした」
「なら良いが。ところで移動教室はもうお前一人だぞ」
見渡す教室は見事にがらんとしており、千鶴の他には沖田と齋藤しか残っていない。ひえっとばたばたと教科書をロッカーから引っ張り出す。次は化学の実験だ。
「そうそう、昨日のクッキーありがとう。あれ手作り?」
「あ、はい、そうです。お口に合いましたか?」
心配そうに首を傾げる千鶴ににっこりと笑った沖田は、満足そうに頷いた。
「うん、とっても美味しかったよ、ありがとう。土方先生の前で食べたらさーもう見物でね……ホワイトデーはその時の写メでよろしく」
思わず苦笑して、千鶴はロッカーの棚で教科書の端をとんとんと揃えると身を翻しドアのところで待っている二人に走り寄る。
「齋藤さんはいかがでしたか?」
「美味かった」
言葉少なに、しかし裏表無く、率直な正確をしている齋藤の言葉は何より誠実で、千鶴にとっては最高の誉め言葉だ。
「それは良かったです。お粗末様でした」
にっこり笑って、三人並ぶと科学室のある別棟へと小走りで駆けていった。始業のチャイムまで、あと五分。



Next. 2/15 AM 17:45



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プロフィール

ゆつき

Author:ゆつき
日々徒然。
何とか生き延びている。
うっかり突発小話ありけり。
何が出てくるか解らない。
おそらく切羽詰った精神状態で出てくる故注意が必要。


おねがいごと。
小話の続きは、コメントのほうに私が書き込んでいますので、小話への直接コメントはご遠慮くださいませ。

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