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Voi che sapete@安原さんと真砂子

Twitterに載せようとして断念したものです。次こそはついったー。あ、通販情報、というか、オフ情報はついったーが一番早いのでぜひご利用下さい。ああ、どんどんFTPの趣味領域利用が少なくなる…。


※Songbird通販詳細は、一個下の記事です。
明日、22時開始時刻になったらブログのトップに持ってきますので目立つかと。
雨。湿気。傘は無し。
今日に限ってロケ用の着物。
ついてない。
その上鼻緒まで切れてしまった。
「…厄日ですの?」
携帯電話のニュースサイトのカレンダーを見ると十三日の金曜日、しかも仏滅。
ぐっと口を引き結んで、鼻緒が切れた履き物を何とかしようと道脇にずれると、ふっと頭上が暗くなった。
「いえいえ、こんなお嬢さんと相合い傘をご一緒できるなら、厄日でもこの越後谷、承りますよ」
からりと笑いながら真砂子の手を自然に受け取り、そっと人通りの少ない方へ移動して、ついでに傍のカフェに避難。
あっけにとられているうちに真砂子の前にはカフェラテが置かれた。そのまま安原は、黒のジャケットを翻し颯爽と真砂子の前から消えてしまう。置いて行かれたカフェオレをそっと掴んで目を閉じると甘いキャラメルの匂い。真砂子の好みを把握した上でのチョイスに真砂子の眉はますます険しくなる。
「…あんな手口で女性を誘っていらっしゃるのかしら……」
「手口とは、手厳しいですね」
待たせて五分、ひょっこりと真砂子の後ろから現れた安原が、苦笑しながら英字のロゴが書かれた紙袋を手渡す。
「否定はしませんが、お誘いする女性は選ばせて頂いてますよ」
安原がこういうことをするのは、真砂子だけだ。それが解ってなお、真砂子はきゅうと胸が苦しくなるような気持ちを抱きしめる。だって、それが苦しみなのか、優しさなのか、どちら共であるのか、解らない。
読めない笑顔から、真砂子はふっと視線を外し、カフェラテ改め、キャラメルラテをことんとテーブルにおいて、そっと紙袋を大人しく受け取った。
助けられたのは事実だから。わざわざ何かしてくれたのをこの上断るのも無礼だと思ったから。だから。
「……何ですの?」
まあまあ、と真砂子の隣のスツールに腰掛けブラックを傾けた安原は眼鏡の奥の瞳を細めた。
「この上のテナントにあったんで、かっぱらってきました、前々から目を付けてたんですよねえ」
ぱち、と瞬いた真砂子はそっと紙袋を封したテープを剥がし、白い箱を取り出す。金色のロゴ。ぱかりと開くと、赤い皮にビーズの花模様が細かに入ったミュールが一足。
「それなら、着物でも困らないですよね?」
疑問の形をしながら、断定している口調と、間違いのないセンスの良さに、真砂子は唇を噛む。
この人はいつだって、いつだって真砂子の先を行くのだ。辛い時、困っている時、嬉しい時、怒っている時、……孤独な時。こんな時も、いつも。だから真砂子は可愛くない態度しか取れない。
「おいくらですの?」
触れた感じで合成皮ではない。そこそこ値ははるはずだ。
「男性から女性へ、一方的な押しつけプレゼントの債務は要求しませんよ。これでもバイト先には恵まれています」
「お黙り下さいな、苦学生のくせに」
高圧的なお嬢様は立派に社会人である。一方、大学四回生、学費は親のすねをかじっている身で言い返すことは出来ない。年収は向かいの少女の方が何倍も上だ。
世知辛いなあと苦笑しつつ思いながらも、巾着を引き寄せる真砂子の手を制して、箱の中を押しつけがましくなく、そっとすすめる。
細い指先が躊躇うように触れて、薄紙に包まれた華奢なミュールを取り出す。どこか和風のテイストのデザイン。トンボ玉に似たビーズがそうさせるのか。きらきらとしたこの靴は安原ではなく、真砂子のような美少女のためにこそ有る。
「とりあえず、履き替えませんか?オフィスまで、それだと辛いでしょう?」
ふっと目を降ろせば鼻緒が切れた履き物が辛うじて引っかかっていて、危なっかしいことこの上ない。溜息を吐いて履き物を脱ぐ。さり気なく座った安原が影になって、履き替えるところは誰にも見られず隠された。安原も黙ってコーヒーを飲む。こういう所で、決して間違えない人だった。だから。
「鼻緒が切れたものは箱と紙袋にしまっちゃえばいいですよ。代金の代わりに、お預かりします」
「え?」
笑ってコーヒーを飲み干した安原が、真砂子から壊れた履き物を紙袋ごと取り上げてにこりと笑う。
「じゃあ、僕はちょっと先行調査があるので、そちらに行ってきます。谷山さんに温かいものをリクエストして置いて下さい」
真砂子も、温かな飲み物で、きちんと温まるようにと言外のリクエストを残して、スマートに去っていく。残ったキャラメルは少し苦い。
「……どうして、こんなことをしますの?」
その問いは分からないまま。ただ、数日後、鼻緒が綺麗に直された履き物が、麻衣を経由して真砂子の元に返ってきた。
「安原さんから伝言。もらって欲しいと思うものをあげてるんだって。お返しは十分もらっているから気にしないでって」
何のこと?
首を傾げる麻衣に、溜息一つ。鼻緒が綺麗に付けられ、ついでに手入れもされて帰ってきた履き物を手にする。実はお気に入りだった履き物。災難が重なった上、壊れてしまって更にへこたれた。それさえ見透かされていたに違いない。
真砂子がこの履き物を気に入って大切にしているから、修理に出して、こんなに綺麗に直してくれた。
たかだか数千円の出費でも、それは労力だ。それにミュールも結局もらって、あの日はあの靴で帰った。今も大切にしまって、時々履いて出かける。
「そんなの、あたくしの方が知りたいですわ……」
しゅんと項垂れるように、戸惑うように。けれど決して嫌ではない。そんな感情がひしひしと感じられて、麻衣は笑った。
「あたし解った、安原さんが独り占めしてるもの」
「何のことですの?」
心底不思議そうに首を傾げた真砂子に、親友は、だあめと笑って口を閉じる。
戸惑いとか、躊躇とか、不安定で、柔らかいもの。そういうまだ解らない曖昧な、でもほのかに熱の灯るあたたかで、柔らかい感情を、安原が一身に受けようと頑張っていることを、黙って居るのは武士の情けとして、戸惑うばかりの親友に、麻衣は新しい紅茶を勧めた。
「久々にさ、着物じゃなくて、洋服着ない?あのミュールに似合うの、綾子と一緒に買いにいこ?使われたら靴も安原さんも嬉しいよ」
ふっと溜息を吐いた真砂子は、こくりととりあえず肯いた。
キャミソールに秋物のフェミニンなジャケット、ふんわりしたフレアスカートにミュールを合わせた真砂子が着たのはその更に数日後。
目を細めて安原が笑った。
「ああ、やっぱり。お似合いですよ」
着物も、服も。靴が、出なく、真砂子に、似合っていると。
「ありがとうございます」
不機嫌を装って、つんとそっぽを向いた真砂子は、小さくお礼の言葉を零す。柔らかな感情がふんわりとあらわれたような口調に、安原の越後谷スマイルが、ふっと消えて、本当に微かに、満足そうに微笑んだことを、彼女の親友で、彼の同僚だった、お茶くみ要員の少女だけが知っている。



雨の日のお嬢さん、鼻緒をきる。ついった掲載予定だったのが無理だとなりましてこっちに移動。ナル麻衣や他、調査ものを含め、長編を書きたい二人です。

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プロフィール

ゆつき

Author:ゆつき
日々徒然。
何とか生き延びている。
うっかり突発小話ありけり。
何が出てくるか解らない。
おそらく切羽詰った精神状態で出てくる故注意が必要。


おねがいごと。
小話の続きは、コメントのほうに私が書き込んでいますので、小話への直接コメントはご遠慮くださいませ。

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