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緩やかな雨の唄う日は外に出ないで閉じこもるに限る。普段はできない家事をこなして、洗濯だけはお日様を待つ。いつもより少し手間を掛けてご飯をつくり、質素ながらも暖かい食事を取り、室内を小綺麗にかたして、あとは縁側でしとしとと新緑の薫りのするしっとり濡れた空気に身を任せて、背を預ける。微睡みをさそう雨音が縁の下にぽつりと落ちた。
今日は休診日みたいだなと思う。いつ病人が運ばれてくるか知れないのに、雨がたたったのか人の気配は全く無い。
柔らかな髪が頬をくすぐり、望美はふと傍らを見上げた。ふと濃い琥珀の瞳と目が合う。

コメント

望美の視線に気が付いた弁慶が柔らかく笑う。あぐらを書いた膝の上に久方ぶりに片付けさせた書の山から発掘してきた巻き物がのびていてびらりと膝の上を占領していた。
「退屈ですか」
視線はのた打つ文字におろして、背中ごと肩に寄り掛かった望美に応えた。
「…のんびりしてます」
退屈なのだと表情が物語っていて素直で隠し事のできない性情に暖かな思いを抱いた。
「望美さんも読んでみますか?」
「そんなじゅもんみたいな文字読めません」
今度こそふくれ面になった望美が顔を隠すように額を猫の子みたいに肩に擦り付けてくる。
「よく

解りましたね」
しとしとと雨の唄う。
柔らかな声音にちらと琥珀色を見上げると過去を固めた眸があった。決して揺るがない過去の琥珀だ。望美はいつもこれを見てきた。
雨音のなかで響く声はどこか紗がかかったようだった。さらりと古びた紙を撫でる長い指が辿る文字。一つたりとてかいせない。
「これは呪文なんですよ」
ゆっくりと覗き込まれてほほえむ顔がとても静かだった。
「呪文」
繰り返す言の葉が柔らかい。
「君は教えてくれたでしょう?だから僕も教えましょう」
誰にも秘密ですよと言って瞬いて笑う。これは世界を変える呪だと。

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プロフィール

ゆつき

Author:ゆつき
日々徒然。
何とか生き延びている。
うっかり突発小話ありけり。
何が出てくるか解らない。
おそらく切羽詰った精神状態で出てくる故注意が必要。


おねがいごと。
小話の続きは、コメントのほうに私が書き込んでいますので、小話への直接コメントはご遠慮くださいませ。

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