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掘り出してみた種話。

結構種があるある。そらの歌姫とか幼なじみとかキラはっぴばすでーとか。
これはあすかが。これ最後まで書ききった覚えがない。(絶対書ききろうとする前にデータが昇天する)あうち。










Bang! Bang! Bang! Bang!

振り向きざまに一気に放つ。一つ二つ三つ、四つ目は外れて兆弾。ありえないミスだ。たとえ今全速力で機動性の低いきっちりしたスーツを着込んで無駄に長い廊下を突っ走っているのだとしても。いつもと異なった足音は硬い革靴のそれ。重心はずれる塵一つ無いほど磨かれた床に滑りやすいそして何より走りにくい。ああ、コンバットブーツが恋しい。ザフトの赤い軍服は(あれで無駄に派手なだけでなく防弾防熱に優れてるプラントの軍内部研究室で最新開発された対ショック吸収素材)恋しがっても仕方ないからすっぱり諦めてる。もう着ない。着用の義務も必要も無い。というか、今現在の自分の身分であんなもの着てたら危なすぎる。それはもういろんな意味でいろんな所で自分も知らないものを含めて恨み辛みを買いまくってるのが解ってるからだ。それは戦争に参加していた全員の責任。こればっかりは味方も敵軍も関係ない。更に自分の素性が厄介だ。だから着ない。もう着なくて良いこの生活を手に入れたのは自分の意志。
その代わりといってこんなスクウェアでかっちりした服ばっかりに押し込められているのが自分の意思だとは言い切れないが。
「アスラン、下!」
かんかんかんかん。螺旋階段の大理石を華奢なヒールが走ってく。瀟洒な手すりのその陰に、建物の優雅さに似合わない不穏な犬が一匹、二匹。

Bang!

……三匹。フォーカス絞ってロックオン。続け様に飛んだ弾は今度は無駄なく全弾命中。生命活動停止しない程度に戦闘能力奪って撤退。さっさと行くに限るのだ。無駄弾使っている余裕は無い。目標ポイントまでの道程はまだまだ十分距離がある、其処にたどり着くまでの障害に対する情報は無し。ああ、ほら、どこに無駄を生む余裕があるって言うんだ。
かんかんかんかん。瀟洒なヒールが大理石の螺旋を駆け下りる。無力化された男たちの横をすり抜け様にその踵が敵の手の甲に迷わず振り下ろされ、思わず同情。だがそのお陰で無駄な抵抗だというのに、倒れたときに取り落とした拳銃に伸ばされかけた手が今度こそ流石に再起不能に陥った。まあ弾を無駄にしなくてすんだと思っておく。
「ったく、暇人が多い!」
細いヒールがその腕の先にあったバレッタを迷わず蹴り上げた。(暴発する危険性があるからやらない様に)くるると宙で回転する拳銃が、倒れた男がしている薄汚れた手袋でなく、貴婦人がつけるような真っ白な絹の手袋をはめた小さな手に納まった。手早く装填を確認、きゅっとグリップを握りこむ。螺旋階段についた蔓をまく様な瀟洒な手すりに縋る代わりに、彼女は鈍い色のそれを迷わず手に取る。……手に取らせたくなんか無いのに状況がそれを許さない。かみ締めた奥歯と苛立ちは押し殺して、細い体を庇う位置を常にキープしながら辺りを睥睨する。
品のいい建物、美しい廊下と螺旋階段に鮮やかな色彩のドレスを纏った少女と女性の過渡期を揺らぐ彼女が凛と真っ直ぐ顔を上げるのは酷く様になる光景だろう。だが、口元にあるのは揺らがない微笑でなく、きりりと結んだ険しい表情。間違いのない抵抗と屈服を己に許さない強い芯を秘めた瞳の琥珀の色彩だけが、彼女に与えられた唯一の彼女たる共通項でありその証明。
因みに護身用にと思っていた小銃のホルダーを、上半身は無理だけど足にならつけられるかなと呟いた時点でそれは発案の時点で却下したのでカガリは今まで丸腰だ。床に転がるショットガンより小銃を選んだのは踵が高くて重心が定まらずロックが甘くなり、発砲のインパクトに耐えられないと身を持って知っているから。そんなお姫様は普通いらっしゃらない。
銃撃の音が近い。瞳を眇め彼女の体を半ば抱えるように無理やり階段のフロアに身を潜める。ふわりと場違いな良い香と、硝煙が体を取り巻いた。これは彼女が唯一嫌がらないコロンの香。以前誕生日に特別に作ってみたといって桃色の髪をした元婚約者が、きらきらとしたクリスタルカットのガラス瓶を渡していた。彼女をイメージしたのだという香はさっぱりとしてでも柔らかに甘く、そして何より鮮やかな印象が残る。寄せた細い体は淡い色から濃色へのグラデーションが美しい紛れも無いドレスに身を包んでいるのに。
ああ、何でこんな事に。


「解ってるよ、そんなこと」
ラフな部屋儀で行儀悪くソファの上に方膝を抱え、拗ねた琥珀が視線を逸らす。
「地球側の国際情勢が不安定な上に宇宙(うえ)とのつながりもまだ脆い、そもそも条約の締結に軍縮の方向に進ませただけでも奇跡だっていうのにそれがまったく進んでない。何やってんだ軍人は」
最後のほうに愚痴が入ったがそれは割愛。口癖になるといけない。気分が悪いにもほどがある。大体人がこんなに苦労して調停役をしているにも関わらず何なんだあいつらの頭の固さと古臭さ。保身への心配りはネズミよりも素早い思考能力を持ってる癖して、施行はネズミをいたぶって遊ぶだけ遊んでぱくりといく猫より遅い。猫の場合は猫の栄養になるからまだいいとして、こっちの方はさっさと進めないと全世界が再び戦争に突っ込んで人類皆共倒れ。それがわからないほど馬鹿なのかと何度議場で怒鳴り声を上げそうになったか、実際声を荒げて(正直な心の声は閉まっていただけ褒めてほしい)何度こいつに怒られたか。大体説教が長い。今度キラに言いつける。
「それだけ解っているのなら、今のお前の国とお前の重要性が理解できて当然だろう」
ほらまた。なんだってそんな説教されなくちゃならない。
「オーブの威信を守れって話なら聞き飽きた」
「……カガリ」
「私はそれを国の面子に泥を塗らない程度に程々に行動して威張っとけと解釈してる」
威信てなんだ。オーブという国は確かに大切だ。愛して止まない人に託された数少ない戦争の中で、手のひらからいったん零れ落ちかけた脆い欠片。守りきれなかった最愛の欠片。それはどれ程愛しいか。でも大切なのは固有名詞じゃなくて、其処に住む人で、其処にいる人がどんな風に世界のために動くのか。私は世界のためとかそんな大儀を掲げるには子供過ぎるけれど、もう絶対戦争は嫌だから、大切に思いあってる人たちが所属とか遺伝子とか髪の色とか考え方とか、そういうことで殺し合いをするのが凄く悲しくて嫌で、それなのに失う代償のリスクが高すぎるから、二度と戦争なんて起こさせたくないと思って行動してる。
誰かのために何かする。人として当然のことだと生まれてからずっと彼の人は行動することで自身に教え続けて、教え続けて最期に逝った。
親しい人が亡くなる。隣人だった人と離れ離れになる。もしかしたら一生涯会えない別離につながる。愛しい人が失われる。愛しい人の大切な人が欠けていく。……この空の下で誰かが泣いてる。それが嫌だから、全部の涙を受け止めることは出来ないけれど、でもそれだけで行動するには十分すぎる理由じゃないか。子供だけど子供なりに辛酸を舐めてきて、やっぱり出た結論の本質にあまり変わりは無かった。変わったのは、自分の中身。自分の意識。態度と姿勢。多分、生きる方向に物凄いインパクトを与えられたあの一年。
「なら……そろそろ諦めてもいいだろう」
傍らに立った奴はそんな事言ってる。ぴくりと眉根を揺らして、カガリは苦りきった表情でゆっくりと顔を上げた。
きちんと短く切ってあるつめがそろった小さな手で鬱陶しげにきらきらと光る金髪をかきあげて。
「誰が、大体対面を保持する程度ならわざわざ着替えなくてもいいだろう!エアポートについた時着てた正装で十分じゃないか!」
専用機に寄せられたタラップを降りてきたとき、彼女は真っ白い正装を着ていた。軍服にも似ているが、施された精緻な刺繍は軍の紋章ではなく、戦功を表する勲章もつけない、いっそ潔いくらいシンプルな白。あれだけでも肩っ苦しいのを我慢しているのに。
「今回はオーブの首長としてじゃなく、アスハ家に縁のあるこの国のビップ個人の主催の夜会だ。議会でもない、個人的なスペースに国なんてものを持ち込むのか?」
その白い正装はカガリを筆頭とするオーブの象徴のような兆しがある。民間に放送される画面に映るカガリは、ほとんどがスクウェアなスーツ姿だが国家間で催される重要な会議などではあの正装のカガリが真っ直ぐ画面の中で顔を上げている。その瞳は真っ直ぐすぎて潔癖で強く潔い。故に。
「それこそ無意味に国家間の亀裂を深める。緩衝材を担ってるオーブがすることじゃない」
「…………お前がか鬘被ってコンタクトして出てくれば」
「生憎キラと違って身長も体格も違いすぎるしそっち方面の趣味は無い」
端正な顔がたんたんとたんたんと言い募ってくる。反撃する機会が逸している自覚は数々の外交をこなしている(苦手だけど仕方ない)自分の経験上十分理解していたさ。だがそれだけ整った容姿なら別に鬘を被ってカガリの振りをして夜会に出てくれてもまったく問題ないと思うのだが、そんなことを言ったら今度こそもう強制的にマーナに引き渡されるか、援軍のキサカを呼んでくること間違いない。
「一度でいいからハイヒールはいて一日過ごしてみろ。絶対考えが変わるぞ。あんなものはいて二十四時間にこにこ微笑ってられたら尊敬してやる」
「俺はカガリのSP。今のところそういう役職は担っていない」
…………いつか絶対張り倒す。
あーもー全く!いったいなんでこんな所まで出向いてきて、というか国内情勢が不安定だって言うのに国民の税金使って夜会?戦災者の援助金に回せ、夫やら息子やらを徴兵されて働き手を失った家庭とか家財道具一切を失った人とか破壊された公共施設やら軍需といって徴収されたすべての公共施設、支援諸々回復されたらその時なら、祝賀パーティーでもひらひらドレスでもなれない化粧でもヒールの高い靴でも何時間だって笑っててやる。
わしゃわしゃと髪をかき混ぜてため息をつく。どんなに篤い待遇でも、そういう現実を知っているとそんなところに居て笑っているだけ、なんて性に合わない。
ふかふかのベッドとクッションの効いたソファ、空調の整った室内、防弾ガラス越しに見える美しい景色。気の利いた落ち着いた調度品。……自分に本当に必要なのは幼い頃からそういうものではなかった。頭をなでてくれる大きな手と、広い背中。忙しい毎日の中時折すごせる一緒の時間。それが何より大切で楽しみで。
過去に思いをはせればいくらでも優しい思いに溶け込んでいられる。でも、現実はそれを許さない。ソファの肘掛にだらんと上半身を預けて手を伸ばす。貴婦人の刷るようにきれいに伸ばして美しく色を施したそれではない。服にひっかかっかってしょうがないし、第一拳銃を握り殺戮兵器を駆ったこの手に今更そんな美しい装飾は似合わないと思う。正直、性格にあわないといったことが一番の所かもしれないが。
持ち上げた手のひらで掴む袖。自分のそれより長い腕がため息を付きながら頭をなでて抱き寄せる。立ったままのアスランに体重を預けてほっとする。幼い頃父親にそうしたように。泣いて拗ねて強請って強請って、それでも忙しすぎる父からもらえなかったことがある掌。今この立場にたって始めて見えて理解できることは、このスケジュールの中、それでもカガリと過ごす事を諦めず努力してくれた父の忍耐強さだ。マーナに預けっぱなしにすることが許されて然るべき立場であったのに、そうしなかった父に今は泣いて拗ねて強請って、それでもくれないからといって、約束を破ったと言って責めたことを詫びたい。
国情が安定している国には頻繁に連れて行ってもらった。大人だらけの屋敷の中で、その自分にとっての小さな旅程、父にとっては重大な責務の中、自分と似たような子供を時々見つけるのが嬉しかった。独りでないことは、大切なことだ。
くしゃくしゃと頭をなでてくれる大きな手に少し微笑って、琥珀色の瞳を閉じた。
甘えている自分が無性に恥ずかしくちっぽけで、それでも時折こうして身を寄せないとどこに立っているのか解らなくなって、押しつぶされそうになるから。アスランは自分のその弱さを解ってる。一度も話したこと無いけれど。多分。
「我慢してやる、その代わり明日思い切り寝坊するからな」
明日のスケジュールもきっちり入っているくせに我侭を言ってみる。きっと彼は僅かな計らいをしてでも自分に一分一秒でも休息を与えてくれるだろう。
「時間が来たら容赦なくたたき起こしてもらうからな。――ほら、行って来い」
宥めるような声音が癪だが、本当に着飾って笑っているだけなのは苦手なのだ。議会のようにいっそ緊張感があればいいと思う。緊張感が無いわけではないが、あれは独特のものだ。各国が飢えた獣のように利害ばかりを注視している。自分は其処を橋渡しする役目が多い。言動には気疲れするが、自分の仕事だと思えば苦にもならない。
比べて、こういった夜会での立ち回りは国の威儀を守り、それで居て絶対来客、賓客には恥をかかせず、ホストに花を持たせここぞとばかりにつながりを持とうとしてくる国々の着飾った代表者たちと微笑みながら心の底をうかがいつつうつろいで見えない水の中を探るような会話をする。果てしなく自分の性に合わない。
瞼を閉じながら口の端をゆがめてカガリが表情を隠すように俯く。
「まだ時間あるだろ。こんな早くから支度なんてしなくていい、ただでさえ窮屈なんだからな。それより」
くい、と細いあごが持ち上げられる。色違いの視線をぱちりと合わせてカガリは少し寂しそうに笑った。
「話しておきたいことがある」
こんな表情をするとき、彼女は決まって心の中に何かを抱えている。
「私がまだ小さかった頃此処に来たときの話だ」


今日のドレスはマーナが気合を入れた(カガリではない、決して無い)翡翠の緑のドレスだった。ホルダーネックで細いうなじ、白い背中、薄い肩があらわになる。すらりと腰の線が伸びて、すとんとしたラインのスカートが裾に幾度も波を打つ。あらわになったからだの線を薄いオーガンジーを幾重も重ねて、腰から下を何枚も重なる花びらのようにうっすらと淡くぼやけさせた。グラデーションの染めは美しく、下に行くたび色が濃くなり、淡く纏った薄い絹とふんわりと不思議な色彩を醸し出した。
首に下げたのは金の鎖にガラスの中に薄紫の花を閉じ込め瀟洒な蔓草模様で飾られたヘッドを持つネックレス。絹とふち飾りにレース編みのある二の腕までの手袋をはめて、耳にはカガリの髪よりいくらか鈍い金と鮮やかなエメラルドをあしらった耳飾がゆれる。
濃い翡翠の裾からちらちら見える小さな足。これだけは譲らない、とヒールの踵は若干低め。裾の長いすとんとしたラインのドレスがゆれるたび見える白い足首に細い紐をゆるく編み上げる。そのせいで華奢なデザインだが実は結構安定性が高い。翌日歩きたくなくなるのはどんなヒールでも変わりは無いが。うっすらと化粧を施した顔に琥珀の瞳が開かれると、綺麗なだけじゃない芯の強さが顕れる。
それにしても今回のドレスはやはり育ての親たる人間の気迫が入っている。(毎回か)子供を着飾らせたい親心はわからないがとりあえずアスラン側に文句は全く無い。というか、ホルダーネックという時点でアスランが身代わりになるというプランは破綻していてカガリはくそうと聞こえないように呻いたのだが。
きらきらとしたシャンデリア、着飾った紳士淑女、そして姫君。さあ舞台は整った、高い天窓を星が飾り皆が芳しいワインとシャンパンのグラスを掲げ、優雅な幕が開かれたとき、ホール横にあるテラスに出るための大きなガラス戸から催涙弾が投げ込まれた。
狙いはうちのお姫様。
ああそうか、このテロの舞台のお膳立てのために税金をつぎ込んだわけだなと結構冷静に考える。確かにオーブという中立国家の実質的な元首である姫君の身に何かが起こったら世界中に喜ぶ右翼が五万と居る。ああ、宇宙にももちろん居るとも。マシンガンを手にとって万歳三唱しながらすぐに戦端の火蓋が切って落とされるだろう。このお姫様にはそれだけの価値があるさ。
だからといってやすやす渡す馬鹿がどこに居る。
ちらりと窓の向こうに戌が二匹。見えた瞬間少し離れたところでにこにこしている人形を乱暴に掻っ攫う。目の前からお姫様が消えた青年将校らしき軍人は何が起こったか解らないらしいが、一瞬あとにはそんな事すべてどうでも良くなっているだろうから放っとく。あれだけ嫌がっていたカガリをしょうもない理由で引っ張り出させた奴らをどうして庇う義理がある。桃色の髪をふんわり広げて微笑む宇宙(そら)の歌姫は思い切り賛同してくれるだろう。あの見た目でいて時折誰もが思いもしない物凄いことをいきなりやり出して、やりぬく人だ。思えば凄い人と婚約していたものだ。軍権を掌握していた父親の元に生まれたこととか、歴史に残る凄惨な事件で母を亡くしたとか、幼馴染との切ない別れだとか、あの戦乱の最中とかすべてひっくるめて多分一番凄い自分の履歴が、歴史に名を残すであろうクラインの姓を持つ歌姫と婚約していたことだと思う。あれで大切なものを傷つけられたら意外と脆いが、執拗なまでに諦めない意思と実行力を併せ持っている。戦乱の最中、大切なものは父親の遺志でもなく自分の意思でもなく奇麗事にしか過ぎないような戯言、『この世界で起こっている戦争をとめたい』と誰もが思っていながらも絶対出来ない子供のような無垢な、我侭な願い。彼女が大切にしたものは、それだけだった。だから行動の端々に矛盾が見えたし、それを見抜いた幼馴染が今傍に居るのだろう。だから、彼女がカガリを最優先に守ることはその願いの元に成立している。そして個人的な知り合いでも珍しいくらい同い年の友達が居なかった少女同士、あっという間に仲良くなったから身を盾にして守ってもいいくらい思っているかもしれない。(それほど貴重なものなのだ、独りでないということは)
そういえば無二のきょうだいを守ったのだからキラもカガリだけを優先する今の自分の行動を許してくれるだろうか。……根本的に優しいからあまり良い顔はしないかもしれない。でも、一対多数になることは目に見えていて、獲物はカガリだとわかってて、それで行動しないはずが無いじゃないか、俺が。
がしゃんときらきらした多分綺麗な今宵の舞台を砕けさせる音と同時に広場が一瞬硬直する。カガリの顔を胸に押し付け、おそらく催涙弾が使われるだろうから硝子戸から一番遠いホールの出口めがけて走る。こういったガス類に慣れていないカガリがガスを浴びたら酷いことになるのは想像するまでも無い。
蹴る様に扉を開けて、その通路が制圧されていないことを確認し、背中にカガリを庇いスーツの内側のホルダーから銃を抜く。ボディチェックはオーブとカガリという存在の特殊性ゆえオールクリア。(もちろん本国に頼んで上のほうから圧力を掛けて頂いた)予備の拳銃と、いつも使ってるものを二丁。弾倉装填確認、安全装置解除、ポイント、ロック。
思ったとおり催涙弾で広間が見る見る白いスープに飲まれてく。その向こうから大げさなガスマスクを被った人影が揺れて映った。
まだカガリがホールに居ないことに気がついていない。蹴り開けた扉を素早く閉ざし、無線で警備に連絡。制圧されている恐れがあったが命令系統は混乱していないようだ。幸運。素早く現状を報告、そうする間にも慣れないヒールと革靴の音が真っ直ぐ通路を突っ走る。それまでのお人形のお姫様はどっかへ素早く逃げていった。始めてみた時は硬直したが、あまりのその切り替えの鮮やかさにいい加減なれた。本人は自分はこのような服は似合ってないし第一性に合わないんだと散々叫んでいるものの、この場合の評価とは往々にして本人の主観より他人の口が決めるものである。
「馬鹿だよな、本気でそう思う。私がこの手で何を握ってどんなことをしてきたか知りもしないで動きにくい服を着て黙って笑って突っ立てるとみんな私の中身を誤解する。大体似合ってないのにオーブの国賓だからって理由で世辞を言われる身になってみろ!……キラ、お前どっち見てる。笑うんだったら私の居ないところで笑え!似合ってないって解ってるってば!大体お前ら幼馴染みにそろって初見で性別間違われたからな!自覚を持たせて実績積ませた本人が笑うな!アスランも凍ってないでキラつれてキサカのところでも行ってろ!!」
でもあまり露出の高い物は着ないでほしいと思っているとこのような怒鳴り声と共に先日一緒に日雇いSPをしていたキラに黙って肩を叩かれた。ちなみに彼が笑っていたのはびしばし凍りついていた幼馴染に対するものだと解っているとも。そりゃああの人はいつもひらひらした服を着て優雅に微笑んでいるだろうさ、俺と違って前に見たことがあるとか言ってたしカガリを笑う理由なんて無いだろうさ。だがどうしてこんなに屈辱だとか思うんだか。
さて、この会場の図面は頭に叩き込んであるが、今はよりよいナビゲータが居る。オーブの方の警備連中とも連絡をつなぐとちらりとカガリを見る。隣を走る彼女は前を見てひらひらする裾をうっと惜しげに裁きながら南門の花壇の傍の木と呟いた。無線の先にそのまま告げて拾ってもらう手配を済ます。
「此処から真っ直ぐ東の道に抜けて階段をいったん下りる。制圧されてたらお仕舞いだけど庭に下りてとにかく走る」
この闇夜だ。庭に下りれば木が植えられて美しく整えられた東屋や噴水、遊歩道が広がっているちょっとした公園ほどの広さがあるから隠れて進む暗い幾らでも出来るだろう。
一応は『赤』を着ていたし、カガリはお姫様とはいえ単身飛び出して砂漠の内戦の只中に飛び込むお姫様だからして、機動力に問題は無し。
それに此処は、幼い頃彼女が散々遊びまわった各国に散らばる種々多様な迎賓館の内の一つなのだから。
カガリの父上は世界を飛び回る国家元首であった。一人国に残る一人娘を哀れに感じ、寂しく思うだろう娘を連れて出来るだけ一緒に居てやりたかったのだろう、一所に留まれないことを不憫に思いながら出来る限り父は幼い娘をつれていった。だがその心遣いを全く別のところで思いっきり役立てています、今現在役に立ってます、過去にも数件ありましたしこれから将来もあると思います。おしとやか、とか、淑女、とかかけ離れているかもしれませんが、同じようにプラントの方でこんな目にあった場合は俺が似たようなことをして助けてますので、多めに見てやってください。
彼女が言ったように通路を迂回して東側の廊下に出るまで敵は居なかった。殆ど人気の無い場所を選んでいるのだと彼女はこともなげに言う。
「だって見つかったら怒られるじゃないか」
息を継ぎつつ、次左!と勢いよく指示が飛ぶ。確かに大人に見つかれば、真っ先に起こられるか連れ戻されるかの二択だろう。要人の子供なんて犯罪者とテロリストの格好の餌食じゃないか。それより前首長に怒りの鉄槌を貰うのが怖かったんだろうが。(粗雑に見えて育ちが良いため実は彼女のしつけは行き届いていて純粋培養な所がある、だが直情型の行動も少し修正して頂きたかったと時々目頭が熱くなる)
そして螺旋階段に続く通路で、敵と鉢合わせ。硬直し銃撃戦になる前に速攻あるのみ。出会い頭に次々先頭不能者を増やし、ただいま螺旋階段のフロアで記録更新中。
一歩先に踏み出した足を制し、通路の先を確保しながら銃口を常に意識する。階段を下りたところに広がるホールに、大きな扉があった。庭園に出る。
だが其処は十中八九網が張ってる。解っていて引っかかるようなまねはしたくない、矢継ぎ早に敵を倒して直進してきたため、どんなに早く移動しようとこちらの同行は読まれているだろうし。装備が最新のものでないとはいえ奴等も無線くらいは持っているだろう、その程度の系統だった動きをしている。(監視カメラは目に付く限りを壊した、十字路のもののみ。さもないと自分たちがどこに向かっているか中央警備室を押さえられれば一発でばれてしまう)カガリが素早く袖を掴んで壁伝いに通路を移動する。ホールの大きな扉を避けて、階下に伸びる窓の並ぶ先ほど走ったのと似たような回廊をたかたか走る。出来るだけ音を立てないように、今度は全速力ではないが。
こうした場所で後ろから狙われないとも限らないのでナビゲータに斜め先を行かせ、後ろと前に伸びる回廊に気を配った。途中、いきなりカガリが足を止める。
「椿」
小さく呟いて窓枠からそっと外をのぞくと、鮮やかに映える赤い花と硬い常緑。案外変わってないもんだなと苦笑しながら、カガリが窓の掛け金に手を伸ばすのを制して、先に窓の外を確かめる。掛け金の外れる音にすら気を配りそっと静かにガラスを押した。音も無く両開きの窓が開く。
闇の中を鋭い目が見通し、カガリを手招く。ひょいと彼女が窓枠に足を掛け、ドレスの裾を気にすることなくひらりと音も無く飛び降りた。細い腰を支えていた手を離し、すぐさまそれに続く。生垣にしゃがみこむように指示を出すまでも無く、夜の闇に溶け込むようにカガリは身を低く潜めていた。窓を出来るだけ静かに閉める。掛け金は諦める。もとよりこの回廊にずらりと並ぶ窓全てを調べることは不可能だ。見取り図で把握していた監視カメラは出来うる限り片っ端からでたらめな進路を取っているように破壊していった。ホールのカメラは死角を通ったので映ってないはず。
声を掛けるまでも無く、二人とも前を見たまま静かに南を目指した。


続!(続ってなにさ…)

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プロフィール

ゆつき

Author:ゆつき
日々徒然。
何とか生き延びている。
うっかり突発小話ありけり。
何が出てくるか解らない。
おそらく切羽詰った精神状態で出てくる故注意が必要。


おねがいごと。
小話の続きは、コメントのほうに私が書き込んでいますので、小話への直接コメントはご遠慮くださいませ。

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