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盗めない宝石

遊ぶためだけに付けるパソコンの開放感は素敵だと思う。
結果が全部帰ってきて無事事も無し。先生を暗殺しないで済みました。

時に。
ゼノサーガって今エピソード何話まででてるんだろう。
ああ、此処にのっける内容じゃない。いつか知らない間にどっかにトリップしているだろううんうん。この記事は若マルって良いよねー!!っていうおはなしに全ては終局します。ただ記録と保存のためだけにアップ。






「だったら、どうだというのかな?」
至高の鳥籠に入れられた少女は城郭の一室で優美に微笑んだ。少女というには些かとまどう、少年のような雰囲気がその一瞬で払拭される。大地の色をした髪を揺らしてふんわりと微笑み、さながら至尊の玉座にでも着くように、小さな体をベッドに腰掛け、この上なく洗練された仕草でゆっくりと足を組む。
「……ニサンの御方、かの至宝は我が国に縁深きもの、我々はその伝承の神秘を知り、後生に広く伝えてゆきたいのです。どうぞご協力のほどをよろしくお願いいたします」
華奢な手を組み、その上に小さなあごを乗せて、室内を見分していた見事な碧玉が一瞬鋭く眇められた。
「伝承というからには、これがおとぎ話になるくらい信憑性の低いお話だって事も解ってるでしょう?もう既に喪われたかもしれないものになんの意味があるっていうのさ」
貴人を匿い、捕らえる部屋はその身分に遇した相応のものである。無邪気な姿をした少女は、その部屋に不思議なほどしっくりと似合っていた。それもそのはず、彼女は正真正銘、玉座の血を引き、一国に座す者である。その気になれば例えいつ何時、何処であろうと、誇り高い血筋と、それを土壌に培われてきた彼女自身の誇りが、気高い魂を垣間見せる。
ふわりと流れる上等の香のなじみ具合が、この部屋が何処まで手間のかかったものなのかをよく示していることをマルーはさとく感じ取っていた。此処までしっくりと自然に香りを馴染ませるにはとても手間がかかることだ。ついでに、人体に有害な物質が混ざっていないことも確認して、身に染みついた王族という習性に因果なものだねと、そっと心の中で従兄に語りかけた。
幼い頃閉じこめられたじめじめとした石壁も、陽の差さない部屋も、今はこんなに遠い。なるほど、ニサンの聖母は捕らえる事にすら気を遣わねばならない賓客であるらしい。こうして腰を下ろしているベッドは年不相応に小柄な体が沈むほどに柔らかいし、ベッドカバーの刺繍は見事なアヴェの伝統工芸。これ一品で一家の一ヶ月が賄えるだろうなと思う。
他にカウチが一つ、ソファセットひとそろい、精緻な彫刻のテーブル、質素を美徳とするニサン教の自室より豪華な部屋に違いない。ため息をつく。これほどの豪華さには実は馴染んでいないからだ。一番今の自分を形成した幼い頃、好みは砂漠を沈む船の中で従兄と共に身を潜めていたからだ。思えば、あの頃が一番平和なモラトリアムだったのかもしれない。
蔓草の意匠の格子のはまった硝子窓が二つ。バルコニーはない。自害防止のためだろう。そんなこと頼まれたってしてやるか。ご丁寧に明かり取りの天窓にも細かな装飾の鉄格子がはまっていた。
ちらちらと黄金の光が精緻な影を描いて床に映り込む。絨毯も丁寧に織られた豪奢なものだった。砂漠の月下に花開き幸福を呼ぶとされる花が美しく織り込まれ、見事に上品なノーブルスカーレットで室内を飾っていた。そぐわないのは己自身か。
普通の年頃のやんごとなき姫君が此処に囚われの身となったらさぞ絵になることだろうに。
降りそそぐ砂漠の陽光は本当に純粋な金色で、それをよすがに彼の人の髪を思い出しながらマルーは苦笑した。己がそんな貴婦人にはなれないことを一番知っているのは、多分今此処に乗り込む算段を考えているその人こそ。
その苦笑を余裕の証と取ったか、あの日の拷問官の変わりに、目の前にたつアヴェの高官が苦々しく咳払いをして注意を引いた。
「風邪をひいていらっしゃるのかな、フェザー卿?」
「覚えておられておいでか、至極光栄でございます」
「勿論。貴方は叔父上の頼りがいのある側近であられた」
「……マルー様」
「控えられよ、貴方にその名を許した覚えはない」
きん、と空気が張りつめた。この部屋の空気は彼女の呼吸にすら支配されていた。
「……ニサンの民は私を温かな情を持ってマルーと読んでくださる。私はこの名を与えてくれた両親に誇りを持っている。ゆえに、私の至宝であり、無き両親の形見である大切なこの名前を、我が親愛なる隣人、そして家族であるニサンの民に捧げたい」
真っ青な瞳が睨むでなく、怒るでなく、強い光をはらんでただこちらを見つめてくるのに彼はひるんだ。昔、城内の者は例外なく、それこそ宗教も民族の壁も越え、アヴェの国民として愛され、アヴェの父と母の小さな宝物をその名前で呼ぶ栄誉を与えられた。マルーは幼い、外見的な特徴が特に幼い。またその口調からして相手に侮りを与えやすい。ゆえに幼い頃そのままに彼女を呼ぶ人は数多くいる。
「……あなたはこの国では珍しく宗派が異なるかと記憶しているよ。ごめんね、これでも僕はニサンの教母だ。僕の身はニサンの民だけのためにあるんだし、そうしたいと心底願って居るんだ。そういえば僕と一緒にいたシスターには随分迷惑をかけちゃったね。滞在を長引かせてしまったから、ニサンではゆっくりしてもらわないと。そう本国に伝えてくれるかな?」
不意に、強い光が和らいでマルーが無邪気に笑った。小さな少女の頃そのままに。だがその有無をいわせぬ威厳は、幼い頃にはなかったものだ。ころりと態度を鮮やかに変える少女の姿が、何処に本当の真実があるのか全く解らなかった。
ひやりと冷たい牙を突きつけられたような錯覚が背中に趨った。宗派などこの少女は問題視していない、仇に呼ばれる名など無いと言外に突き放したのだ。だが、此処で話を逸らされてはたまらない。これでも疑心暗鬼と化した王宮で成り上がった自負がある。
仕えるかみさまがちがうのでしょう?マルーはニサンの天使様だけれど、それが違う人もいるんでしょう?マルー達を護ってくださる神様がたくさんいらっしゃるということでしょう?
それは素敵なことだ、と笑った少女はもう居ない。他者に寛容であることは変わらず、他宗教と抗争もほぼ無いと言っていいニサン聖教に君臨する大教母が目の前に座している。隣人に寛容でありながら、聖職者として慈愛と憐れみを絶やさぬままに、己の敵を認識する牙を隠し持っている。なるほど、ファティマは護るべきもののためならば、並ぶもの無き慈愛の母と代々称されるニサンの母でさえ牙を剥くという、その逸話をこの目で見る日がこようとは。先代の血を彼女は確かに継いでいた。
実際、彼女は今目の前にいるものが己でなければ、護るべきものを害する敵でなければあっさりと親愛の証しに名を許すであろう。その純粋さが彼女を無垢なる母として思慕を集めさせるに至った。異なる宗教国家、団体や関係者の中でもきわめて名高く、敬愛の対象であった。
ただの与しやすい小娘であればよかったものを、のらりくらりと毒にも薬にもならぬ態度で無邪気な体で居るばかり。どういうつもりかと見に来てみればこの有様か。随身の身の安全を保証させ、更に本国とつながりを取れとは。
「シスターのことはそのように取りはからいましょう。城下に滞在なさっているはずですから、ニサンとの連絡にも不自由のないよう使いを。御名のことは大変ご無礼を致しました。ですが、先ほど申し上げたことは我が主の願いでもありますことを、どうぞ、努々お忘れ召されぬよう」
よくぞ。
言った。
「へえ、そういえば、そうだったね」
主よ、感謝いたします。この、あるじを裏切った者の顔を。我が叔父を裏切った者の顔を生涯忘れ得ぬ機会を下さったことを感謝いたします。
しんと心が絶対零度に冷え渡る。碧い瞳が恐ろしい光を秘めて閃いて、そしてゆっくり眇められた。
ゆったりと座ったベッドの上で天窓を仰ぎ、美しい宝石を彼女は瞬かせた。盗まれぬ宝石と世に称えられるファティマブルーは彼女に色濃く受け継がれている。
「あれは確かに、ファティマの至宝だよ。その価値は誰にも計り知れない。勿論ファティマの血を代々受け継いできたご先祖様達、みんなが口をそろえてそういうと思うよ。でもね、それを僕が知っていたとして」
ゆるりと顔が向けられる。国主の威厳を伴って、世界に散らばる万の民、ニサンの全てを背負う少女が静かに、穏やかに、微笑んだ。
「君らに何の関係があるの?」
ファティマを棄てし臣下が何を、と少女は真白に微笑んだ。
教母は正装を纏うとき、代々衣装の色を白と定められている。片翼の天使の翼とその身に纏う燐光がこの世が生まれたとき、共に出でた汚れ無き光であるというニサンの伝承に則っている。
いま、オレンジ色のマントと茶色のキュロットを身につけた少女は天窓からの光に照らされて真昼の白に彩られていた。
「そう、アレはファティマの至宝だ。この身を流れる血に、そしてこの身を流れる血が護れと誓うもののためにこそある類い希なる宝玉なんだよ。ファティマを負うものにこそ与えられるべきもの」
表情を消した小作りの顔、その碧玉が真っ直ぐに何かを見つめている。つよい双眸は揺らぎもせずに大の男を見つめていた。だが、その向こうにいるのが、よく見知った過去の面影を見つめているように、思えて。
ファティマの王を棄て、新たなあるじを担ぎしお前達になぜ関係があるというのか。
少女の瞳はかくかたる。アヴェの簒奪者よ、ファティマの至宝をなぜ望む。禿鷹のように貪りつくし、それでもまだまだ足りぬと言うのか。玉座と民と国と血で、それでもおまえは足りぬと言うか。これ以上の血を望むか、我らの愛した民の血を。我らの叡智と血でもってこれ以上に踏みにじろうと!
少女の瞳はかくかたる。昔この国に座した王の威厳を伴って。彼女はかの方の姪である。
「ね、平和な、この国に、関係ないよね?」
それがかりそめの平和だとこの上なくよく知っている本人が言う。これほど恐ろしいことはない。






”窓は決して開かないのよ。小鳥を逃がしてしまわぬように”

小さな頃、美しい叔母がよく寝物語に話してくれた言葉を覚えている。

”けれど小鳥は、鳥籠の外に世界が広がっていることを知っていたのよ、マルー。世界は水辺に繋がっているの。だから鳥籠の鍵は必ず拓くわ、だから捕らわれた小鳥は、その羽を隠して、賢く水の流れに殉じて砂の海に潜ったのよ。そして再び青空を見た”

「開かない鳥籠なんて無いんだよね」
此処にいると昔を思い出して酷く参る。自分の弱さに辟易して、彼女は静かに目を閉じた。窓際に寄せた椅子の背もたれに顔を伏せると、端からはうたたねをしているように見えると知っていたから、自分は監視カメラのある部屋で存分に昼寝を楽しんでいる前代未聞の囚人として監視を呆れかえらせていることだろう。
存分にあきれかえってくれていい。そうすれば従兄が付け入る隙が出来る。
そうだ、死ぬものか。死んでたまるか。
そっと硝子に映った青い色を小さな手のひらが抑えた。
己が死んだら、鍵が開かない。ニサンの宝が、世界で一番大切な人の元に届かない。絶対に死んではならない。
寝物語にねだった昔語りを思い出す。最後、青空に飛び出すくだりが大好きで、何度も何度も強請っては小鳥が歌うような声で優しくささやいてくれた大好きな叔母。中庭の日だまりで従兄とまるくなって柔らかい膝の上で一緒に眠った日々。
侮られれば侮られるだけいい。けれど決して害されてはならない。うやむやに全てをくるんでしまえばいい。毒にも薬にもならぬ価値のない娘、教母とファティマの血族であることにのみしか価値がない娘なのだと思われていればなおよい。相手がその価値を認識していれば殺しはしないだろう。愚かであると思われればそのうち構う価値もないとして扱われるであろう。
先ほどは少々、やりすぎたかなと苦笑して、少女はくったりと細腕の中に顔を埋めた。あの程度のことで腹を立てるなんて自分もまだまだ底が浅い。これでは自分と同じようにニサンの母と呼ばれた亡き母に笑われてしまう。
彼の人は水の底から、砂のそこからやってくる。必ずやってくる。従兄の母が――叔母がもしもの時を思って愛し児を助けようと幾つも寓話に織り交ぜて話して聞かせた、数々の物語の一つをなぞらえてやってくる。
だから己のすることはこのファティマの宝玉を守ることのみ。盗めない宝石だと世界に名高いこの瞳が、まさか本物の至宝とは思うまい。遺伝子に織り込まれたファティマブルーの網膜パターンだけは傷つけられてはならない。
彼の人は既に一人では扉を開けられない。片眼を喪ってしまったから。
あの時のことを今でも覚えている。
泣きながら駆けつけた先で、術後の熱にうなされて、手を伸ばしてこの髪を撫でた大きな手。
己だけにこの至宝を背負わせたことをすまないと、あの矜持の高い王者が幾度も謝った。
「大丈夫だよ、若。死んでも護るよ」
だから、こんな、貴人が世をはかなんで自害することを止める鉄柵など要らないのだ。事、ファティマの血族において、自害は政治、宗教的な意味より、この至宝を護ることにのみ終局するのだから。
宝玉を護るために死を選んだものもいる。汚泥を啜って生き延びたものもいる。沈黙の行に伏したものもいる。この青を背負うことの特別の意味を、ファティマの名にかけて忘れるものか。
そして、従兄の力になるかもしれないこの局面では数年前のあの幼い頃、陽の差さぬ独房での日々と同じ。
汚泥を啜ってでも生き延びよう。この鉄格子の降りた鳥籠の中で。生きながらに羽をもがれても。自分の身は国と従兄のためだけにある。そして最後に自分が選ぶのは。最後の最後は自分より国で、国より、貴方。
この世界は貴方のためだけにある。
「必ず守るよ」
世界に名高いファティマの血族の青がしろい瞼でそっと閉ざされた。

”可愛い小さなマルグレーテ、どうかあなたにひらかれし鳥籠の扉を、何処までも飛んでいけるしなやかな翼を主がお与えにならんことを”

願いの言葉は泣けるほど優しく、砂の国にまほろばを描いて消えていった。

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プロフィール

ゆつき

Author:ゆつき
日々徒然。
何とか生き延びている。
うっかり突発小話ありけり。
何が出てくるか解らない。
おそらく切羽詰った精神状態で出てくる故注意が必要。


おねがいごと。
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