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そのままの君で居て

現実逃避に来ました。
アルシェリ。ネタバレご注意。
読み返し?校正?はははは 御 容 赦 下 さ い 。
(一日が二十四時間であるという法則は越えられない)(訳。時間がない)
しにたい。
にげばがない。
なんのみらいもない。
かんじょうもない。

なのに。


いきたい泣きたい




空が見たいと言った彼女の言葉に応えてアルトは立ち上がる。
からり、とふすまの開く音。シェリルは斜めに差し込んできた星灯りにゆうるりと顔を上げた。美しい面からプラチナブロンドが更紗のように流れていく。這いずるように畳の上に手を突きながらゆっくりと縁側に向かうのを、大きくごつごつとした手が黙って支える。
強情な気質をそのまま顕したような頑健で節の目立つ指。固いグローブを填めて空を駆り、人を護るため命を狩る手。
黙って見上げれば、ふすまを開いたままアルトはゆっくりとシェリルの体を支える。
「……お前ちゃんと食ってるか?」
「オンナに体重と年齢のことを聞く男は万国共通ロクデナシよ」
バカ、と言いながら、からりと笑い細い腕がアルトの首に回る。くるりと囲う腕は以前抱いて空を飛んだとき、柔らかく良いにおいがして華奢だった。今は前よりもずっと筋肉が落ちて細い。殊更に無表情に感情を隠しながらアルトの腕がシェリルの腰を掴む。
「ちょ、っゃ!」
立ち上がろうとしていたシェリルは、いきなり布団から持ち上げられて、アルトの方に担ぎ上げられた。まるで荷物か猫の仔みたいに。
お姫さまだっことか言わないが、せめてもっと他に人を運ぶ方法としては何か無いのか。アルトの長い髪が揺れる背中にこぶしをぶつけながらシェリルはもう、と頬を膨らませる。
叩かれる背中も一顧だにせず、開いた片手に丹前を持って、開けた中庭が見える縁側にアルトはゆっくり歩いていった。
板張りの床に、哀しいくらい軽くなった彼女を下ろして、微熱の下がらないシェリルの体を持ってきた丹前でぐるぐるとくるむ。子どもみたいな扱いにシェリルは眉を寄せながらも、アルトを上目遣いに睨んだが頓着せず、風上に陣取って星灯りの降る古式床しい庭園を眺めた。
今宵のフロンティアの降水確率はゼロ。微風、温度調整はこの時期にしては僅かに高い。だからシェリルの我が侭を許容したわけだが。
厚手の丹前にくるまりながらシェリルはアルトをじっと見る。何だ?と視線に気が付いたアルトが方眉を上げてシェリルを見下ろしていた。それに返事をしないでいれば、アルトはくしゃくしゃになった髪の毛を、伸ばした手で梳いて乱れた着物の裾を直してもう一度袂をしっかりと冷えないように甲斐甲斐しく世話を焼く。
「……かほご」
「うるさい」
不機嫌に仏頂面を作るアルトにシェリルがくしゃりと子どものように笑った。そして、アルトの上着の裾をそっと掴む。どこまで近づいて良いか解らない、といっているようでその仕草が切ない。
だから、裾を捕まれた手を払って、シェリルが傷つく表情をのぞかせる前に細い手をぎゅっと握ってやる。夜風に冷えないように。心も冷えないように。この命の灯が決して消えることの無いようにと切実に、祈りながら。強く。
こつん、とアルトの腕に額をシェリルがくっつける。
お守りを質にとって、フロンティアを案内させたとき。学校ではちゃめちゃな大騒ぎを繰り広げたとき。シェリルは我が侭だった。
今も我が侭だ。でも何かがあの時と確実に違う。傲岸不遜なシェリル・ノームは影を潜めて、子どもみたいに笑ったり、甘えたりする。――その変化がアルトは怖い。彼女の命の灯のゆらぎを見定めてしまっているようで、怖い。
「ねえアルト」
「ん?」
「……苦しいときはいっそ殺せと思うのに、それでも死ねないのは何でかしらね」
破壊されていく体の内側から軋みを上げる骨の髄まで終わらない終わらない苦しみ苦痛が終わらない終わらないまるで傷みを受けるためだけに息てるみたいただ横たわって何も出来ずにのたうち回るだけ食べれない歩けない動けないただただ苦痛苦痛苦痛苦痛いたい何のために息をしているのか。
――いっそ殺せ!
前髪を鷲掴み叫んだことがある。ただ一人、病室のベッドの上で終わらない苦痛に苛まれながら命の刻限を剪定したくせに、この傷みまで受けさせるのは何の拷問。
「……お前が星が見たいとか空が飛びたいとか歌いたいとか薬は嫌だとか我が侭だからだろ?」
握り直した手、ぎゅっと力を込めた。細くなった。儚くなった。
「欲があるうちは死ねない」
「……そういうもの?」
「少なくとも。お前の我が侭に付き合ってるかぎりはそうは思えない」
「……そう。じゃあ、もっと」
ふわりときんいろの髪ごと腕に顔をこすりつけられて、表情が隠れて見えない。星が見たいと言ったのはシェリルなのに。
「わがままでも良いかな」
「……いいんじゃねえか?」
「アルト」
なに、と言う前にころりと小さな頭が腕の中に転がり込んでくる。縁側に足を下ろして座っていたアルトの膝の上にきんいろが広がった。小さな子どもみたいに笑って海色の瞳があるとの榛を見上げている。やわらかに、泣きそうな色彩で。
「あたしはアルトにわがまま言うの、好き。だから、いきたいって思うのもいいわね」
膝の上の小さな温もりに息が止まりそうになる。今この命が腕の中から零れ落ちようとしていることが許せなくて、悔しくて。それでも幸せそうに笑う彼女が、いきたいと言ってくれることが何より嬉しくて。
せめて安らかであればいい。病状が酷くないときくらい、苦しくないといい。辛いなら泣いて欲しい。でも、それよりもっと。もっともっと生きていてほしい。
「――わがままなのは俺もか」
「え?」
「何でもない」
くしゃりとなぜる柔らかな髪の毛が手のひらから零れ落ちていく。この命を護るために、明日もアルトは空を駆る。
泣かない彼女が一度だけ見せた涙が忘れられない。
ふうわりと風が長い二人の髪の毛を攫っていく。星の灯りが透過スクリーン越しに瞬きもせず鮮明に明るい。
そんな光景を見てると解らなくなる。生きたいのか、逝きたいのか。
でも、美しい光景を見て、それが人工でもまがい物でも真実に自分の欲しいものなら。例えば星灯りとか、夜明けの光、昼間の人工照明の暖かさ、庭に咲く花とか。今、くっついてるあったかい体温。
解らなくなるけれど、そう言う美しくて、愛しい、些細なことを記憶するたび、嗚呼。
「……まだ」
私は生きているのね、と泣きたい気持ちで思ってるの。



アルト×シェリル@過去も未来も今もずっとただそのままの君で居て

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プロフィール

ゆつき

Author:ゆつき
日々徒然。
何とか生き延びている。
うっかり突発小話ありけり。
何が出てくるか解らない。
おそらく切羽詰った精神状態で出てくる故注意が必要。


おねがいごと。
小話の続きは、コメントのほうに私が書き込んでいますので、小話への直接コメントはご遠慮くださいませ。

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