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薄桜鬼すきー十題から@携帯より

ちょっと連載もどき。
早くパソコンに触れるようになりたいです。

薄桜鬼お題の誠か鬼より。(書いてみなきゃ分からないがたぶん誠で)

とりあえず書いてみ、まし、た、ら。
やばい指定がつく上にこれ長くなる……!!!!!!!!!!!!!!!(絶望)
決戦は次の土日!(泣けそう)
自分と言う人間の性であろうか。医学を志した父の信念を間近で見てきて育ったためだろうか。
人を傷付けるより自分が傷付くほうがましだと思って生きてきた。
人に手をかけ殺すくらいなら、自分が死ぬほうがおのれにとってよほど安逸であると信じて疑わなかった。こんな時代であるにも関わらず。



それが覆される瞬間など、一生涯ないと、思っていた。












井戸の水を掬っては盥におとし、また釣瓶を手繰って盥におとす。透き通った水はざあっと気持ちの良い音を立てて昼の日差しに煌めいた。目映い飛沫に常なら思わず微笑みも浮かべただろう千鶴は、ふっと小さな吐息をつく。八分目ほどにも満たした盥の水は並々と波打ち透き通って盥の木目まで綺麗に映す。
弥生の初旬、季節はまだまだ井戸の水を冷たく感じさせる頃合いだ。繰り返し水仕事にいそしんでいたため、じんとかじかんだ赤い爪先は少し感覚が鈍くなっていた。それも一刻のうちに治るだろうと気にも止めないで千鶴は桜の単衣を、水の中に沈めた。もう何度目のことだか特に覚えていない。
最初は面白いほど水が濁った。固まった血の凝りを矧ぎ、刮ぎおとしながら丹念に深紅の――否、深紅であったどす黒い赤を水の中に溶かしていく作業は何度やっても慣れることがなかった。


新選組に入って暫くしてから、監禁同然の生活は千鶴に逃亡の恐れも、意志もないと近藤、土方の両名が判断したために最初の頃に比べれば比較にならないほど緩やかなものになっていった。それでも、外に出ることだけは許可がない限りは許されなかったため、隊内の巡察や組長連中の用事にでもくっついていかないかぎりはこもりきりの生活を余儀なくされたため、千鶴はすぐに暇をもてあますこととなった。
とは言っても千鶴が住まう部屋は新選組の幹部たちの部屋どころか、壬生狼の鬼副長が居座る私室にほど近いため、下手にうろつけば聞く気も見る気も触る気もない隊内の機密に触れてしまいかねないため、とことこと無防備に辺りを散策することもできない。とは言っても、暇とは好奇心旺盛の年頃には何よりの敵である。隙あらば父を捜しに隊内の巡察にくっついていくが、組長が今回の見回りは危険であると判断すれば、あえなくその申し出すらも却下されてしまう。命がかかっている局面で足手まといにしかならない千鶴を連れて行くわけにはいかないと理性では解っていても、その分増える暇と、今、その危険を負っているかもしれない、顔見知りになった人たちの顔が浮かんではじっと籠もっているしかない現実は更に苦痛であった。
そこで恐る恐る、訪ねてみたのは鬼副長の居城である。今日も今日とて眉間にしわを寄せなにやらじっと考え込みながら、書状をしたため試作に耽入る副長は、幹部たちですら下手にお近づきになりたくないともっぱらの評判だ。こんな状態の土方を相手にできるのは、昔ながらの既知からくる気安さなのか、近藤や沖田程度のものだった。
しかし、そのころは千鶴もさすがに、父を見つけられず、役割も与えられぬ身の上に心の底から厭いていた。駄目で元々、せめてため息をつかないようにと、土方が好むと言っていたぬるめの玉露に茶請けを添えて、地獄の閻魔の門よりも潜りがたい襖の前に膝をついて丁寧な所作でお伺いを立ててみた。案の定、不機嫌に聞こえる声が返ってきて怯みそうになるものの、こっそり拝借した来客用のとっと気の玉露を無駄にするのは如何にも惜しい。思い切って敷居をまたぎ、千鶴は漆塗りの盆を差し出して、とりあえず、お疲れ様ですと差し入れを持って来た風を装って、袴を裁き、下座にきちんと正座した。
からりと開いた障子戸からは中庭の涼しげな椿の常緑が見えている。今は未だ夏の盛り、侘助の季節はまだまだ先であったが、つやつやとした常緑が弾く陽光の様や、硬い歯が風に揺れて涼しげな音を響かせる夏の椿も千鶴は嫌いではなかった。
「で、勝手に客人用の茶っ葉使いやがって何企んでやがる?」
暑い日差しの落ちる午後、畳には表とうってかわって濃い影が沈む時間。風はそよとも吹かないで、鬼副長の機嫌はいつも通りの低空飛行らしい。
盆から骨張った大きな手が少しだけぬくもりの残る茶碗をとると、千鶴とっておきの玉露を何でもない顔をしつつすすりながら土方は書状から視線をちらとも上げずにいきなり核心に切り込んでくる。
いきなり裏心を察知されては、これはもう九割九分九厘、駄目だ、と確信しながらも、しょんぼりしながら千鶴は重い口を開いた。
「……あの。その。今日は。――三番隊の巡察の日で」
「ああ、そうだな」
「……私も同行させていただくつもりだったんです」
「やめておけ」
からん、と筆を置き、墨を擦る。差し水をされて硯に流れる黒が涼しげだった。
「薩長の動きがとりわけ不穏だ。確実に今日は仏を拝むことになる」
淡々とした声音には不穏な響きは皆無で、土方は日常を崩さない。……だからこそ揺るがない真実であると、千鶴は否が応にも思い知らされる。
確実に人が人によって、無理矢理に殺されていく場面を見ることになる、と涼しい顔のまま土方は何事もないかのように告げたのだ。
ひぐらしの声が部屋をいっぱいに満たしている。
なのに、平静な土方の声は、千鶴の心に突き刺さるほど、不思議なくらいに明瞭だった。
「同じことを、斉藤さんも仰いました」
ちらりと千鶴の方を切れ長の瞳が伺う。しかし興味もなさげに、土方は墨を置き、また書面に目を走らせ始める。こちらを決して振り向かない背中に、何をどう訴えれば何が届くんだろう、と考えながらも、千鶴の精一杯はとつとつとした言葉にしかならなかった。
「だから今日は、私を連れて行けないとも」
浅黄色のだんだらを翻して重い二本を差して、今頃はあの人たちはどうしているのだろう。異質な千鶴と会うたびに挨拶程度を交わした人は。顔見知りになった人たちは。寡黙でありながらも千鶴を見守ってくれる斉藤は。今。どこで、何を。
「ここは鬼の住む場所だ。今更分かり切ったことを言うんじゃねえ」
聞き分けのないだだをこねる子供になった気分で千鶴は視線を落とした。唇をかみしめて、きゅっと灰鼠色の袴を握りしめる。ずいぶんと板に付いてきた男装は、女性の所作を削ぎ落として行く課程に似ていて異なる。女性の所作を意識しなければ女性の所作をとってしまうから、千鶴は無意識に自分の性別を肝に刻んで、敢えて女性の意識を忘れないようにして男性を振る舞っている。けれど、袴の裾を握りしめた手のひらはかすかに震えて、女子供以外の何者でもなり得ない自分がそこにいた。
「心に」
ぎゅっと手のひらを握りしめる。爪が食い込んで痛い。痛いくらいが良い。その方がきっと言葉にも、震える声にも力がこもるはずだと信じる。
「不安を抱えながら、時間を厭かせるには、飽きました――役立たずなのは承知済みです。土方さん。私にお仕事をください」
名前を呼んで、顔を上げる。逡巡を思い切って視線をまっすぐに、こちらを振り向かない背中に目を向けると、いつの間にか土方が横顔で千鶴を見ていた。
「時間を不安で押し殺すよりも何か、何でも良いから役に立っていたいんです。みなさんが帰ってきたときに、お帰りなさいってちゃんと言えるように」
開けた障子戸から一度、涼しげな風が吹いた。場違いに心地の良い風に、今度風鈴でも買ってこようかなと思う。下げさせてもらえるかは別としてもびいどろの細工は見ていて涼しい。
椀に残った茶を見下ろして、酒でもあおるように一息で土方は冷めた玉露を飲み干した。風味を失わず、わずかに甘く、後味は柔らかにほろ苦い。柔らかいだけではない複雑さ。
「おい、そこの役立たず」
「……た、確かに言いましたけど」
明らかに衝撃を喰ってよろめいた千鶴に、土方が苦い顔で、こん、と音高く茶碗を盆においた。
「役立たずにやらせる仕事はねえ」
ぐ、と息を詰めて唇をかんだ千鶴は、それでも顔を下げなかった。しおれた子犬のような風情で後ろに結った髪は垂れたしっぽのようなのに、瞳だけは痛いほどにまっすぐだ。
たとえばこれが斉藤でも近藤でも沖田でも原田でも新八でも平助でも――土方でも。自分を拘束している組織なのだと言うことなど半ば忘れるようにして身を案じるのだろう。そして痛いほど心を責める。何もできない自分を。
ふと、昔、何もなせず、このまま労咳で死ぬかもしれなかったことを思い出した。
「繕いもんは山ほどある。洗濯もだな。後は賄い方に行って来い」
ぱちっと大きな瞳が息をのんで瞬きした。常に斬った張ったの大騒動を起こしている隊内では道着も隊服も組員たちの平服も汚れ放題、破れ放題。更に大所帯になってからと言うもの、寝具の類は常に洗濯が追いつかないと当番がいつもぼやいているのを千鶴は知っている。
他の隊士たちとあまり関わりを持ってはいけないと言われているが、それでも心許せる人も必ずいるものだ。各隊の組長を見ていれば、誰がどの程度の信頼を得ているのかはある程度わかるものだ。
そして千鶴には母がいない。仕事に明け暮れる父の衣食住も病人の看護もしてきた千鶴にとっては家事の類はお手の物だ。
千鶴が誰と声を交わしても良いか、何が得意か、きちんと理解している上での指示にぱちっと瞬きして、数瞬の後、理解が訪れる。ぱっと頬に嬉色を浮かべた千鶴は、今にも駆けだしていきそうになった。確かこの前の斬り合いで小袖がほつれたと斉藤が言っていた。ならばまずは一番にそれを。それから隊士らの布団を日干ししよう。山になっている洗濯物も日差しが続くうちに片付けて、それから、それから。
不安をいっぱいに抱えながらも何かできることがあると信じて、千鶴は仕事を与えてくれた土方に向かって大きく頭を下げた。
「――ありがとうございます!」
「礼は言わないが良い」
にやりと極悪な、閻魔も裸足で逃げ出す笑みが美貌のかんばせを彩った瞬間、千鶴は瞬間的にびしっと体を凍らせた。
「もう一杯、袖の下代わりの茶と、総司とっときの茶菓子を持ってこい」
ぐらっと傾ぐ視界を自覚しながら千鶴はその場に打ちひしがれた。
「それは、極刑の宣告ですか!?」
「別にかまわねえぞ。やろうとやるまいと。ただし優先順位は茶菓子が一番とする」
間違いなく死刑宣告である。
飛び跳ねる子犬のしっぽのように喜色満面に笑った顔が今や蒼白に震えている。爆笑したいのをこらえながら、死ぬほど気怠い京の暑さも、進まない仕事も、日和っている上役連中も、飾りの二本をさして進まない会議に近藤をつきあわせているお偉方への苛立ちも、いつの間にやら土方は忘れていた。
不安を不安のまま、心に押し込めてただ待ち、耐えるということができぬうちはまだまだ餓鬼だなと苦笑しながら。
結局そののち、沖田とっておきの葛切りを先ほどの玉露とともに土方に進呈した後、その日の午後は思い出したくもない沖田の笑顔と心に突き刺さるいろいろな思い出に苛まされながら井戸端で洗濯に精を出し、無事返ってきた斉藤に、繕い終わった小袖を渡して半泣きで沖田から、その背中に隠して貰ったのだった。


それ以来、千鶴が許される範囲での細々とした仕事、特に手先の器用さや丹念さが必要になる隊服や正装などの繕い物やら洗濯やらが、持ち込まれるようになったのだった。
わしゃわしゃと飛沫を散らして洗濯をしていると気が晴れる。晴天ならばなおさらだった。よく干されて日向のにおいのする洗濯物を渡すのは嬉しかった。
けれど、千鶴に繕い物や洗濯を頼んだものたちは、細々と動く手元を見つめてわずかな苦笑や、静かな視線を向けてくるのだ。いつかそれに気がついて、千鶴は不思議そうにあけはなった襖に寄りかかっていた原田を見上げて首をかしげたことがある。原田は何も言わずに苦笑して、くしゃりと千鶴の頭をなでたきりだった。沖田は、解っている答えを素直に教えてくれるような人間ではなくて意地悪な猫みたいに笑うだけ。斉藤は沈思に沈む。平助は嬉しそうに礼を言って、しみじみとありがとうと。それはいつもの彼の快活さには似合わぬように。
ある時、近藤が下阪する際の出がけ間際、上着の裾が解けているのに気がついて、すぐになおしますから、とそれを受け取ったときのこと。千鶴の手の早さに驚きながら快活に笑って、君ならいい嫁さんになる、と言ってしみじみとした瞳を向けた。ふるさとに残してきた娘が一人。この人にはいるのだと千鶴は初めて思い出した。家族と離れているのは自分だけではない。この人は、志一つでここにいる。己も父を捜そうという志一つで上京してきた。
己のそれは国を救おうとか、そういうたいしたものではなくて。
けれど、退けない必死さは同じだろうと、国を大切に思う気持ちも家族を慕わしく思う気持ちも同じに崇高なものだと近藤は言った。
そして千鶴の差し出した上着に袖を通して、広い背中を向けた大きな手がからりと襖を開けた。
「留守の間、トシを頼む。行ってくるよ」
その顔に、おおらかな笑みを浮かべていると確信できる声。振り返らずに、けれど堂々とした足取りで近藤は命を費やす場所へと躊躇うことなく踏み出したのだった。
頼むと言われた千鶴以上に、きっと土方を信頼して。
「……どうぞ、ご無事で」
預けられた信の重さは計り知れないほどだろう。そして土方は何でもない顔でその信頼に応えるのだ。新選組を守ること、それは隊士らの命であったり、新選組の使命であったり、誇りであったり――誠であったりするのだろう。どんなに人を寄せ付けぬ険しい気配を纏わせようと、どんなに重責を負わされようと、その荷物が重ければ重いほど、不遜に笑って鬼の業には丁度良い重さだと千鶴を含めた、彼が守ると定めたすべてを、文字通り命尽きるまで守ろうとするのだろう。
容易く想像できてしまうそれは、千鶴にとっては単なる現実でしかない。そして、そこに千鶴が肩代わりできる重責は皆無だ。
日々不穏になる京の市中、その見回りをする沖田や斉藤、原田に平助、永倉に井上に――自分と親しくしてくれた人たちの顔がかわるがわる思い巡らされる。彼らの無事を祈る、ただそれだけしかできない、何も肩代わりできるものはない。
畢竟、千鶴には新選組に対して背負えるものが何もないのだ。
当たり前だ。己がここにとどまる理由はただ一つ、父の行方ただそれだけ。他に理由はなく、それ以上の至上の目的もない、ただ父の無事を祈り探し続ける。
彼らがここに籍を置く理由とは、根本からして違っているのだ。
誰かのために命をかける、国を憂えて大志を抱く、友と背を預けいくさばを駆け抜け戦い抜く、そのために新選組に集いこれを決死で守り抜く。それが、彼らの理由。
千鶴とは何もかもが違うのだ。
唇を噛みしめて、とっくに遠ざかっていった近藤能勢に向かってもう一度、千鶴は心の底から、祈った。
「ご無事で、帰っていらしてください」
私はただここで、みなさんの待っていますから。
できることのすべて、千鶴の、それが。
あまりの少なさ、また軽さに、膝の上で握りしめた手のひらに爪が食い込んだ。水仕事をしても決して荒れない鬼の手は柔らかな娘の皮膚のまま、簡単に破って血を流す。その血さえも乾かぬうちに、千鶴の傷は治って消えた。……痛みすら私はここにいる「人」とは共有できないのだ。
無理矢理に息を吸い込むと肺がずきんと痛んだ。それよりも心が痛くて、悔しくて、涙を流す自分の至らなさが悔しくて、零れる前に瞼をおろす。
手のひらからひとしずく血が伝って流れた。それはまるで涙の代謝のように。
ふるりと頭を振るうと括った髪が子犬のしっぽのように揺れた。愚図愚図とした気持ちも洗い流すかのように千鶴は眉間に力を込める。ぎゅっと今一度、手のひらを硬く握って開く。
懐紙を使って血をぬぐい、傷跡も残らない白魚の手が畳に手をついて立ち上がる。
ほっそりとした後ろ姿が、立ち上がり袴の裾を丁寧にさばく。しゃんと背筋を伸ばして、近藤が出て行った戸を潜った。せめてその後ろ姿だけは女々しいものにならないように、ここにおいてもらえる間は、これほどに心の強い人たちに守ってもらう自分に値するように、せめて返す。誠意を。
下阪していった近藤の見送りの波が一通り崩れ、おのおのが持ち場に戻りつつある屯所内を静かに千鶴は移動して、賄い方に顔を出した。

「今度は玉露じゃないですからね」
と、釘を刺して置いた朱塗りの盆の上にはほんわりと湯気を上げる湯飲みと茶請け。少しだけ熱めに入れた番茶は、この後洗濯に井戸場に行く千鶴が、土方の用をこなせないからと思って、少し大きめの椀に、熱めに淹れて冷めにくいようにと配慮を込めた。
冷めた頃にまた、土方の好む茶を入れ直してこようと思って。
近藤の見送りをすませただろう土方は、軽く視線をよこして千鶴を見上げた。旅装束の局長が無事で帰ることを願って、近藤を慕う隊士らの多くが、隊務の合間を縫い見送りの場に顔を出した。しかし、そこに見慣れた子犬のような小さな人影が見あたらなかったと記憶していた土方は、何処にいたのかと問おうとした瞬間に口を閉じた。
斉藤の巡察に連れて行ってもらえなかったときと同じ色のまなざしが、伏せた千鶴のまつげを彩っていた。寸前の言葉をすり替える、一時の沈黙が部屋を満たす。
「そうそう客用の茶っ葉を賄賂代わりに使われてたまるか」
「大丈夫、下心は今回はありませんから」
自信満々、ぎゅっと胸の前で握り拳を構える仕草に土方が口の端を上げる。
「ほう、今回は?」
「こ、んかい、も!です!あの時だけです!土方さんに下心なんてそんな命知らずなことがそうそうできると……」
ついうっかり要らない本心が口に上ってくるのは千鶴のほめるべき素直さではあるが、反転すれば迂闊としか言いようがない。
「そうそうでなかったら、やると。まあ覚えておいてやらあ」
「ことばのあやですわすれてください……」
千鶴の言葉を遮るように、せいぜい嫌みな顔をして脅しかければ、墓穴を掘ったと自覚した千鶴が打ちひしがれながら棒読み口調でふるふると首を振る。そのたびに、後ろではねる仔犬のようなしっぽはどこかしょんぼりと元気がない。
ぱちんと、傍らで火鉢で熾火が爆ぜる音がした。それに気がついたように墨の様子を見て、小脇に抱えていた綿入れを差し出す。
「足りないようでしたらもう一つ、火鉢か温石を持ってきますから仰ってくださいね」
ひぐらしの季節はいつの間にか遠かった。しんしんと冷え始める京の冬、もう、侘助が咲く時期だ。雪が本格的に降り積む前にと出立を急いだ近藤の背中が思い出された。
差し出される墨染めの丹前。去年、ほころびのあったところの丁寧に繕われたあとが新しい。
「私は冷えないうちに洗い物をすませて来ます。水場にいますから、ご用があったらそちらにお願いします」
千鶴の言葉にわずかに眉をひそめた土方が、障子戸の隙間から見える曇天をにらんだ。
「下手をすりゃ雪が降ってくるぞ、風邪ひきてえのかお前は」
だいじょうぶですよ、そういって立ち上がる、桜の袂がはらりと揺れる。
「私は丈夫だけが取り柄ですから。誰かがやらなくちゃいけないことですし、それに隊士の皆さんが風邪をひくよりもましだと思いますし。あ、もしそうなっても、風邪を引くなんてたるんでる、士道不覚悟切腹なんて駄目ですからね」
いくらでも拡大解釈可能な局中法度は土方の最良次第で道都でもなると言って等しい。それでも、風邪を引いたくらいで無体な仕打ちはしないだろうとは千鶴には解っているが、一部では本当にやるんじゃないかと考えられていることも承知している。
本気半分冗談半分、笑う千鶴に土方は軽く眉をしかめたが、千鶴は気がつかないまま土方の傍らに手を伸ばす。
「これも風に当てておきますね」
しわを刻んで落ちていた上掛けを取り上げると、茶をすすった土方は、書状に視線を落としながら、ああとうなずいた。
――土方は千鶴を見ない。仕事を命じた張本人でありながら、他の誰とも違う反応を見せる。
「……土方さん」
「あん?」
完全に書状に意識がいっているらしい、おざなりな返事が返ってきた。それが故意なのか否か、判断するすべが千鶴にはない。
「わたし、ご迷惑ですか?」
ずっと危惧していたこと。さすがに女の子は手先が器用だとほめてくれたのは源さん。手間が省けて助かると抑揚無く、言葉少なに言ってくれたのは斉藤。感謝されるべきことでもほめてもらえることでもない。ただ不安を押し殺したいから、役立たずの自分で居たくないから。
わずかに土方の眉間のしわが深くなる。湯気を上げる熱い番茶が喉を落ちて体の芯を暖めていく。繕いあとの新しい丹前も、これから冷え込む夜に掛けて焼きから土方を遮るだろう。
「――迷惑なら誰もほいほい仕事を押しつけねえだろ。何言ってやがる」
「……でも」
何も言わない斉藤、笑うだけの沖田、苦笑して頭をなでた原田、しみじみとかみしめるようにありがとうなと言った平助。どこか遠いところを見ていた、そして優しく千鶴を見てくれた近藤。
背を向けたまま振り返らない土方。
「みな、いつそれが死に装束になるか解らねえもんを預けてんだ。恥じるな」
針を千本飲み込まされたような衝撃に息を忘れた。
とっさに手にちからが籠もる。握りしめた上掛けは濃紫の長着。
そういえば、皆柄物を好んでいた。もしくは濃い色のものを。ああ、それは――。
血の痕を血で塗りつぶすために選んだ色と柄だったのだと。
沈黙を捧げられた、何でもないいつもの顔で笑ってた、苦笑しながら頭をなでくれた、噛みしめるような礼の言葉を貰った、優しい視線で千鶴を見てくれた。――それは、千鶴がこぎれいにしてくれるおかげで、いつでもまともな格好で死にゆけると、笑ったのか。
ぽたりと障子戸から見える赤と白のまだらの侘び助が首から落ちる。薄くつもった、ましろの雪の上に。季節はもう冬、井戸の水も凍るほど冷たくなる。それでも千鶴は厭わずに汚れを落とし、破れたあとを繕って。
洗って洗って洗って洗って、水の色が赤くならなくなっては落ちたのだと思った。しかし返り血も、自分の流した血も、一滴たりとて血は流れるままこびりついて落ちず、その上からまた血しぶきを被る被る被る。
いつか堕とされるかもしれない首を、墨染めよりも濃く、白装束よりはかない死の崖縁で、濃色の死に装束で守って。
「――はい」
死んでも泣かない。誰も死んでいないのだから。唇をかみしめて、雪の上、ぽたり落ちた侘び助を見つめていた。常緑の緑だけは、あの夏と変わっていなかった。
季節はもう何度巡っただろうか。あのやりとりがあってからもっとずっと丁寧に、無事であるように、怪我がないように、ひとはりひとはりに願いを込めて、気持ちよく過ごせるようにと着物を洗いよく風に当て、丁寧にたたんだ。土方から貰った言葉は、胸に閉じこめたまま。きっと誰もが死に装束だと覚悟して、その覚悟を胸に閉じこめたまま日々を過ごしているように。
梅の香がわずかに薫る。もうすぐ季節も終わろうという弥生の初旬の頃。
千鶴は千々に破れた着物を洗っていた。淡い桜色の単衣は方から見頃までざっくりと袈裟懸けに着られており、繕うにも骨が折れそうだ。そして洗っても洗っても、淡い桜色の単衣から鮮血の痕は取れなかった。水の色が透明なままになっても、赤い染みはそれ以上決して、落ちなかった。
どんなにどんなに擦って、洗っても、水に赤色が混ざらなくなるまで擦っても、一度付いた染みは決して落ちない。
死に装束は自分にも当てはまるのだなと、唇を噛みしめて、こぼす涙の代わりに笑った。ここは鬼の住まい。羅刹に殺されかけ、でも自分は生きている。皆が助けてくれたからこの衣は死に装束にはならなかった。
それはただの僥倖にすぎないとしても。込められる謝意を、消えない血の痕と一緒に刻みつけようと思った。すぐに消えてしまう体の痛みと傷の代謝に。








えーと。あの。その。ええと。短編練習だったのに絶対に長くなりそうで本当にどうしよう。(すみませんごめんなさいこれで序章完みたいなくらいしか進んでない)
と、とりあえず土日!土日暇になりますから!そしたらパソコンいじれますから!!!!(まだ一縷の望みとか何かにすがっているらしい)

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プロフィール

ゆつき

Author:ゆつき
日々徒然。
何とか生き延びている。
うっかり突発小話ありけり。
何が出てくるか解らない。
おそらく切羽詰った精神状態で出てくる故注意が必要。


おねがいごと。
小話の続きは、コメントのほうに私が書き込んでいますので、小話への直接コメントはご遠慮くださいませ。

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