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鋼@お題10:大樹、ロイアイと幼なじみ

ロイアイと幼なじみその一。区切りが良かったので取りあえず。続きはもうしばしお待ちください。次は薄桜鬼かエリザベスちゃんのどちらかが良い。
その前に拍手のお返事を。すみませんすみません日々の糧です…!!orz
人の体は乳幼児が80%、成人で大体が60%の水分で出来ている。
喉が渇いたときは、60%が59%に傾いたときだ。
体内の調子を元に戻すにはその一パーセントを足してやればいい。
水はかむほど貴重に飲め。がぶのみはするな。喉の渇きが言えたと判断できたらそれは体内の水分がまた60%に戻った証拠だから、そうしたらまた動ける。多少の無茶も許される。







「その」
「あ?」
「腕と足を提供してくれているロックベル嬢のことだが」
ぶはっとふいたのは東方司令部名物薄い安い不味いコーヒー。
「何であんたが知っ…ちょ、待て。それが何だ?あんたにゃ関係ないだろ?俺の専用技師で技師職人、それだけだあんたが関わる必要がどこかに存在するのかこれっぽっちでも良いから立証しやがれ」
そんなことどうでもいいだろと反せば間違いなくナニか不吉なことが起きる気がして端的な説明に止める。
空が落ちてきたような、世の中が真っ暗な最悪な日々。憔悴仕切った子供の胸ぐらを鷲掴み怒りを顕に牙を向く獰猛な錬金術獅は、錬金術師の誇りをかけて徹底的に子供を問いつめた。その後は人を焚き付けるだけ焚きつけて、コンマ以下の可能性賭けるような行為に焔を点けて疾風のように去っていたはずなのに何であいつのことを知ってやんだこのセクハラ男は。やっぱり歩く公序良俗違反者か。
少年が向ける嫌疑の瞳に上官は飄々と足を組んで尊大な態度で、だが切れ長の瞳をそっと伏せた。
「いやなに、うちの副官が髪を伸ばし始めた訳が私のためじゃ無いかもしれないなーってことにこの頃気がついたというかかもしれないというか」
司令室全員の生ぬるい視線が一点に集まった。しまった、我々の上官は歩く犯罪者だったか。すでに知っていていた真理とはいえ切ないものが胸を締め付けてむさ苦しい男達はこっそりと目頭を押さえた。

副官てあれ?タバコのノッポの方?キモッ。
鷹の眼のおっかない美人だ。残念。
その“残念”て、①大佐のセクハラ癖②上官のサボりを中尉の鉛玉での脅迫、いやいや直訴を期待して却下されたこと(縦断と破損した機材の経費がかさむという理由で却下)③少尉が新しい彼女に髪の短いヒトは好みじゃないのって遠回しにふられたのに気がつかずに心機一転長髪チャレンジして玉砕するのが見れなくて面白くない、どれが残念なのかすげえ気になるんだけどさ。他にもっと聞いておかなきゃならねえ事があるんだオレ。
どうした大将?
軍人てみんなこんな感じ?
それはあまりに酷い。ただ、官位があがると同時に変態度鬼畜度奇人度があがって反比例して人格が倫理的に下がるのは統計上確認済みだ。准尉が調査してくれた。
調査するほど深刻なのかよそれとも暇なのかよ……まあいいや解った、じゃあブレダ少尉もきっと昇進するって安心しなよ。
東方司令部随一常識を知る人間に何を言うか。

常識を知っていても活用しないところが東方司令部なのであるとこの頃悟った少年は、自称は常識人であるらしいブレダの心の傷を考慮してそっと黙った。沈黙は金也。

「そこのちびとはらぼて。ちびには尋問の最中だ、おまえは給料分きりきりはたらかんか!」
「アイサー」
やたら張り切ってその場を辞して自分のデスクに戻っていくはらぼてはとてもこの場の雰囲気から逃げ出したかったらしく心持ち足取りが軽い。恨めしげではなく恨めしく見送りながら偉そうにふんぞり返る国軍大佐に視線を合わせないようにエドワードはソファに座り直した。所詮オフィスの備品、奴の執務室の重厚な革張りの適度なふかふか感を期待している訳でもなく、足を組んで腕も組んで、ふんぞり返って態度も視線も斜めに構えた。この男相手にはこれくらいが丁度良い。
「それで君の専属技師ウィンリィ・ロックベル嬢のことだが」
「何でファーストネームまで知ってんだ!?」
だがその尊大な態度は意外な切り口の攻撃にあっさり崩される。
「空色のぱっちり大きな瞳に淡いフレッシュレモンのような爽やかな金髪の彼女のことだが」
「修飾句が邪魔だ無駄だ!」
「ちなみに全部中尉の受け売りだが」
「…………………………………」
ああそうか、謎は全て解けた。目の前のコレがおれんちじゃなくて、ばっちゃんとウィンリィのうちに殴り込みをかけてきたとき付き添ってたのが他ならぬ中尉で、あの時は少尉?まあどっちでも良いけど、見あたらなかったから部屋の外でとにかくホークアイ中尉は待っていて、そうやって待ってる人に何のもてなしもしないあいつじゃないし。そういう性格だからこんな我ながら付き合いきれない幼なじみの兄弟達と未だ付き合いが続いているんだろうし。多分やることもなく目前と只ひたすら主を待っていた中尉…じゃなく当時少尉にお茶でも出した、と。そこで幼なじみと話をしたと。
で、中尉を通して大佐にまであいつの話が行ったと。
「……余計無ことを」
エドワードの呟きにロイが(エドワードにとって)嫌な感じに嗤った。
「彼女は嘘は言わない。最大の賞賛だ、今度帰郷したときにでも伝えてくれたまえ」
というか、自分でもリアリストな彼女があそこまで柔らかな微笑みで滅多に聞けない詩的な表現まで交えて優しい強い子でしたよなんて少女を語るなんて。羨ましい。いやいや。
「やだね」
心の中で馬鹿馬鹿しい問答を繰り広げていたロイはぴくりと眉を跳ね上げた。
「なぜ?」
「軍人は嫌いだから」
言い放った言葉は、軍属である錬金術師の口から出てきた。小さな少年は、軍の戌として尻尾を振り思惟を見透かされないようにたった一つだけを求め続ける貪欲な知識欲と、好奇心の塊と、大切なもの達への愛情でで成り立っている軍属の錬金術師だった。
「君も軍属だろう、ロックベル嬢には嫌われているという理論が成り立つが?」
「好きで戌に成り下がった訳じゃねえし、他に手っ取り早い方法があればすぐに乗り換えるさ。ただ他に少しでも楽で有効で有力なツテがなかったってだけの話」
軍への忠誠心の欠片もない、諦観した声が零れる。そう、零れるのだ。反論ですらない、諦観だった。酷く客観的に己を見つめる年不相応な黄金の瞳は時折真実と現実の両面をじっと見つめて動かなくなる。
その覚えのある諦観に、ロイは目を伏せて山積みに積まれた書類の山からエドワードが先ほど投げ置いた報告書を拾い上げた。
「だが、軍属の君に変わらず、国内でもかなりの精度を誇る義肢を日々提供する技術を磨くことは、少なくとも軍属という理由で嫌いになることはないと言う彼女の態度の表れではないかな。君に限るかそうでないかは、私の関与すべき処ではないが」
その言葉にぐっと詰まる。明らかに、明らかに自分は優遇されているのだ。特別扱いされているのだ。
帰郷した、新しい義足と義手を点けた日、庭でアルと組み手をしていると寝不足でよろよろした金色の頭がベランダに見つけられる。その目がまぶしそうに蒼天を見上げて、それからすと瞳をすがめる。職人の眼だ。寝ぼけながら引っ張り出してきたでっかいスケッチブック、そのときはそれこそエドワードが錬金術に没頭するのと同じ眼で、幾枚も幾枚もスケッチブックにすさまじい速さで幼なじみの組み手の動きをリピート/デッサン。どんな風にエドワードは動くか。どんな動きが多いか。何処に負荷がかかりやすいか、どうすればよりよく、エドワードの意志通りに動くことが出来るのか。さんざんスケッチした後は部屋にこもって夜中まで、昼間のデッサンを参考に新しい義肢の線を引く。幾枚もの失敗と失敗と失敗、その上にある改良と成功。医者の娘として産まれ、義肢や医学に関する書物に囲まれて育ったのは彼女にとってとても有益であっただろう。だがその技術も才能も、このデッサン一枚、部品の研磨一つ、努力努力努力努力。積み重ねだった。そこから生まれてきたものだ。錬金術を志した自分たち兄弟となんの変わりもない。ただ志だけが雲泥の差だ。自分たちは神様に近づきすぎて羽をもぎとられた。墜とされ汚泥にまみれなお泥の河をはいずっている。それは自分たちの意志だから後悔をする覚悟で、それでも前に進むのはもう構わない。でもウィンリィはちがう。ただ、命を救う指を持ってる。挫けた心を立ち直らせる手のひらを持っている。初めて庭に出た日のことを覚えている。歩けた喜び、草の臭いの新鮮さ、風の感触をずっともう忘れてた。呆然として目の前の、目の高さの風景に釘付けになって居ると目の前に弟と幼なじみがにっこり笑って、手を差し伸べた。
さあ、世界を見に行こう!
例え汚くっても綺麗な場所があるって知ってるから大丈夫。辛くってもやさし居場所があるって知ってるからがんばれる。ときどきずるをして休み休み、でも全速力で趨っていける。また趨ることが出来るのだ。なんて幸福。なんて素敵。
さあ、世界中を見に行こう、この新しい腕と脚で今からすぐに前へ進もう!

軍属を決めたあの日以来、ウィンリィは必死でエドワードの看病の傍ら義肢の勉強に没頭し一年も満たずに最初の試作品を完成させた。機械仕掛けのそれはそこらの義肢と到底比べ物にならないくらいの専門的な機械技術と医術の知識の固まり。この無骨なギミックがこれからは自分の腕、コレが己の背負う罪、そしてウィンリィの、今までずっと一緒だった兄弟の手を離してただ視て、護るだけという覚悟の証。そう思うと笑うことさえ困難で。
無くなった腕の先を柔らかな、荒れた指が優しく撫でた。
「これがあんたの腕と脚よ。これからずっとずっと、元に戻るまであんたのものよ。もう何処にだって行けるよ。でもエドはがさつだからきっと壊しちゃうね。私が作ったんだからそう簡単になんて壊れないだろうけれど、でもきっと螺子も緩むし錆も出る、絶対メンテさぼるでしょ?だから、だから時々で良いから帰ってきて私に私の作った腕の責任を取らせなさい。解った?解ったら、行ってらっしゃい」
涙をこらえた満面の笑顔が寂しさと嬉しさの両方から来ているのなんてもうずっと解っていた。
「ウィンリィは、軍人が嫌いだ」
「好きな人間は多くないだろうな」
どころか、誰だって厄介ごとになんて巻き込まれたくないと思っているに違いない。心のどこかで。軍人の青は苦しみの象徴。この東は酷い内乱という虐殺の辛酸をなめたのだ。失われたのは民族だけでなく、多くは年若い、軍人達だった。
「でも変わった」
穏やかな瞳で暗色の空を思い出していたロイが目を伏せた。まず服が焼けて、皮膚が焼けて、毛髪が焼けて、睫もなくなって瞼がはがれ頬がそがれて。燃え尽きた灰が砂漠の風に舞うとまるで雪のようだった。死の灰。
「あんた達が来てから変わったんだ。たぶん、軍人にも色々あるんだって解ったんだと思う」
けれど、と白い手袋に包まれた義手を握りしめた。間接がきりきりと、傷んだ。
「あいつの軍人嫌いはきっとずっと、治らないかもしれない、けれど、一応、中尉の言葉は伝えておく」
彼女の家族が戦地で帰らぬ人となったのは事実だ。ウィンリィの両親は医術と義肢装具の知識に優れていたから戦場では重宝される予定だっただろう。でも、医師の意志と意思が彼ら夫妻の命運を分けた。
本当は反対されると思ってた。もう何処にも誰も軍人になんか連れて行かせないっていうのが彼女の、多分本音で、でも手放す勇気を与えたのは、支える強さを与えたのは、待つということを決して忘れないのは。
瞼裏に金色の光が趨る。暖かな月の光の金色と太陽のような彼女の笑顔。ピアスホールの鈍い銀色。それからフェアブロンドの、受付で見たとき髪を伸ばしていた中尉。
かの女性(ひと)が幼馴染みに如何に何を語ったかなど知るよしもなく、だがそれは幼馴染みにとっては決して拒否すべきものではなかったはずだ。色々豪快だけれど(上官を蹴飛ばしたり足蹴にしたり無能と断言したり)そういう優しくて、誠実な人だと識ってる。
「一言一句間違いなく伝えたまえよ」
「んな長い修飾句覚えていたところで仕方ないだろうが」
だが純情な少年にはあの賛辞はちょっぴりきつい。
「こまめな賛辞は女性の気を和らげるものだ。……聴かないというか効かない女性もいるけどね。で?」
「なんだよ?」
「中尉はロックベル嬢の影響で髪を伸ばし始めたと思うか?」
問題が振り出しに戻った。
「知るかヘタレ」
「応えろ、上官命令だ権力は偉大だな鋼のはははは、は!?」
ふんぞり返ってデスクチェアがぎしりと軋む。こいつ太ったんじゃねえ?などと思いながらもその瞬間、太ったんじゃねえとの不名誉な感想を抱かれた彼は軍人らしい機敏な動作で俊敏に床に伏せた。
一瞬の空白もなく、乾いた銃声とともにデスクチェアに穴が空く。
「ブレダ少尉、問題の一つは解決しました。壊れた備品は大佐の錬金術で直していただきましょう。さあ、これが本日の追加書類ですよ。働いてくれますね、給料分。きりきりと、きりきりと働いてくださいね。寝る間を惜しんで働く貴方のためなら髪の毛だろうがなんだろうがいうことを聴いてあげますから」
しずしずと銃をホルダーにしまいながら彼女は器用に三十センチはあろうかという書類の束をずしりと積み上がったデスクの上に崩さずに載せた。かなりの技術が必要である。
「素晴らしい解決策です、マム。ところでこちらに中尉の認可印を押していただければ後は大佐のサインで俺は直帰できるんですが」
ブレダ少尉の差し出した書類を受け取りばらっとめくって、頭に入っている要項と照らし合わせる鷹の眼の鋭い慧眼が光る。
「テロ対策のシュミレーションと中央との合同軍事演習の件と連続強盗犯の取り締まり強化対策の一環としての市街地見回り強化ルーティンの組み直しを任せておいたはずだけれど、そちらはもうできているの?」
「……残業って素晴らしいですよね」
「中尉!今掠った!掠った!」
「あら、私としたことが……申し訳ありません、腕が鈍りましたね。今から射撃場に行って訓練をして参ります。最近上官との追いかけっこがデッドヒートしてさぼりがちだったから腕が落ちたのかしら……ああ、大佐がちょっと丸っこくなっているのも原因の一つかと進言いたします。常の加減でポイントすると僅かに掠ります。では私は小二時間ほど戻りませんからそれまでにここから」
鷹羽色の瞳がデスクの一番左端から、右端を往復して。
「此処まで終わらせて置いてくださいね。では失礼します」
「君のサポート無しでこれを全部終わらせる私だと思うのか!?」
「そのときは銃弾で直訴しますのであしからず。ああ、備品の解決策を提言さえすれば銃弾は意図不明弾ではなくきちんと経費で落ちるよう経理に掛け合っておきましたからご心配なく」
これが東方の内乱を鎮めた猛者達か、と思うと何もかもなくなった故郷の景色を思って少年は目を閉ざした。とりあえず現実から逃避して、もうレポートも出したんだしとにかく弟の躰を元に戻す旅に出ようと本懐を胸にして金髪の彼女の後をついて行った。


「帰ってあげなくちゃ、ダメよ?」
ぶはっとふいた。今度はコーヒーの被害には遭わなかったけれど精神的にクリティカルヒットだ。この人の直球はストレートにボディにクる。
「中尉は……」
言いかけて、何を言おうと、聴こうとして、黙る。
自分は走り続けるだけ。時々、たまに、偶然、振り返るだけ。そこには変わらず笑顔があるだけ。その幸福を噛みしめる。独り善がりも良いところ。
「走り続けるヒトのことを追い続けるのは時々、本当に時々だけれど。疲れるから。だからね、少しだけ振り返ってあげてね」
こつこつと軍靴の音がリノリウムの廊下をずっと続いていく。きっと足早な軍靴の音をこの人はもうずっと、何年も、追いかけ続けている。
「中尉は、辛い?」
さあ、と細い首をかしげた。さらと後れ毛が細い首筋を隠すアンダーウェアに散る。相変わらず軍人の形容が似つかわないほど美しく華奢な人だ。筋肉はそれなりについていても体の形が女の人だからきっとそう感じるのだろうと思う。
「つらいとか、つらくないとか、そういうことではないと思うの。辛いことも痛いことも沢山あるけれど、私たちにとってそれは当然だし、その覚悟で臨んだことだし、でも疲れるときはあるかしら」
時折、何よりも無表情で感情を表に出さないと思われる東方司令部第一位を独走するこの女性は、誰よりも素直だと思う時がある。そのことをきっとあの男も知っている。
「疲れたときに、振り返ってもらえると、それで嬉しいの。それでいいの。それは多分気遣われたということだから。好意を向けられた証でしょう?優しくされたということ。優しくされると嬉しい。だから」
リザは柔らかく微笑んであの男もきっと滅多に見たことの無いような顔で柔らかく話している。鷹羽色の瞳が窓から降りる日差しの欠片にあたたかな光彩を浮かべていた。
「未来への保証がないのなんて誰だって一緒だし、明日私は死ぬかもしれない。――それは、貴方も一緒」
軍人の、市に対する覚悟についていろんな事を想う。いつ死んでも構わない。此処で死ねない、絶対に生きる。そのアンビバレンツを常に抱いて生きているのが軍人という生き物だ。それでもそんな言葉をエドワードは聞きたくない。けれど遮りかけた言葉を制する強さでリザが言い切った。きりりと瞳に力がこもる。
「保証なんて望んでない、私は、約束があればそれで良い」
「約束……って、どんな?」
不意に困った顔をするとフェアブロンドが優しく揺れて鷹羽色の瞳をかすめた。僅かばかりの哀しい色と計り知れない覚悟の色がその瞳の色彩を瞬時に彩り鮮烈に染め上げるが、金の糸のような前髪に遮られて、それはエドワードには届かなかった。寂しげに/哀しく、幸せそうに微笑んだ顔も。
「約束すら残すことに不安があるなら、だから時々、振り返ってあげると良いと思う」
でも、自分は罪人で、許されないことをしてしまって。彼女は人を救う腕を持っていて。自分には母と弟を罪に陥れた腕があるばかりで。
言葉に出来ない葛藤が胸に渦巻いて苦しかった。金色の双眸が苦しげに俯く。とても小さく見える少年の頭をそっと撫でると、袖口から硝煙の香りがふわりとした。
ああ、ウィンリィは機械油の臭いがした。
「罪は背負うものじゃないわ。私たちが進む道で犯し続けていくものよ。それだけの覚悟がないなら軍から出なさい」
「厭だ!」
リザの腕を振り払う勢いで、真っ直ぐに黄金の瞳が苛烈に睨みあげてくる。
「アルも待ってる、ばっちゃんも待ってる先生に怒られてシグさん達にも心配かけといてヒューズ中佐も心配かけててそれなのに」
ぐ、と息を飲む。リノリウムの長い渡り廊下には誰の人影もなく、目の前のヒトは何処までも透徹としていた。
「退く理由が何処にも無いじゃないか」
飛び込んでくる苛烈な瞳に黒い色が重なって、僅かに切なくなる。
この子を待っているあの子も、きっと辛くて寂しいだろうけれど。形はどんなに違っても必ず力になっていることだけは忘れないで欲しい。だって彼らは必ず。
「振り返るから、忘れないから」
必死に言いつのって、子供のように。普段大人を足蹴にする弁舌を駆使する少年は少年らしくつたない言葉を必死の一念で伝えようとしていた。イシュバールで見た死の灰の美しさ、煌々と燃える焔、吐血しそうな自身の痛みを軍靴で踏みにじりそれでも前を向いていた人が、いた。
「なんの約束も出来ないけれどきっと、時々は、帰るから」
何の意識もしていないから彼女はとても奔放に振る舞う。二人を見てお帰りといつだって手を広げてくれる。自分は意識しているから絶対に言葉も約束も残さないと決めている。「自覚があるから」何も約束を残してやれない。本当に無防備なのはウィンリィの方で。
大切な人の傷を抉るのはもう厭だ。さんざんだ。それなのに繰り返す。
母さん、ニーナ。
「だから、どうしても進むけれど、そこで」
待ってて。
最後の一言、エゴの固まりがどうしても言えなくてついに俯いた。エドワードのために一生懸命なウィンリィに何を還してやれるわけでもなく、ただ待っていろというその傲慢。根拠も確証もないのに、待たせるという最悪なやり方。
「待ってる」
振り払われた手のひらが柔らかく頭に乗る。
「待ってるわ。待ってるから、だから行ってらっしゃい」
顔を上げれば胸がいっぱいで泣き出しそうだった。こんな心情誰にだって吐露したこと無いのに、なぜこうも簡単に吐き出してしまったのか。アルにだって一言も漏らしていない。態度で解っているかもしれないけれどでも。言葉になんてしたことは一度もなかったのに。
「鋼の錬金術師エドワードエルリック殿、マスタング大佐に渡す報告書の件は終了いたしましたか?」
「え、あ、うん」
突然格式張った言葉にエドがびっくりして顔を上げるとリザがぴしっと敬礼した。
「それでは行ってらっしゃいませ。道中のご無事をお祈りしております」
「……ありがとう」
「ウィンリィちゃんとアルフォンス君によろしくね」
「うん」
「気をつけて、行ってらっしゃい」
鷹羽色の色彩がふんわり柔らかく笑うと、ぐっと奥歯を噛みしめた少年が白い手袋を宙で舞わせ、踵を慣らして敬礼する。この仕草も何年目か、随分慣れた。ぴしっとこめかみ掠って敬礼。苛烈な黄金は真っ直ぐに前を見て。
「……行ってきます!」
にかっと最後に年相応の前回の笑みを浮かべると、赤いコートが鋭く翻り渡り廊下を駆け出した。
赤い鮮烈な影。思い出す少年の快活さと、赤い炎の海。見上げた青空に死の灰は降らない。
これからまた降るかもしれない。
それでも、ついて行く。振り返り、時折、視線を合わせて頷くだけで。
小さくなる背中を見送りながら、不意に少女の声を思い出した。全力で、駆けていける足を力の限り作り上げた少女。鋼鉄のギミックを扱う手は硬く、荒れていた。その手を美しいと思った。


――ねえリザさん。軍人さんて、大変じゃないですか?辛くないですか?

ウィンリィちゃんは躰の一部のない人を見ていて辛くない?リハビリに苦しむ人を見て辛くない?

――あたし、辛いです。けれど自分のしたことでその人がまた自分の力で頑張ろうってするのを視るたびに尊敬するし、そういう人の力になれること、誇りに思います。痛いなんて言われるまでもなく知っててそういう人見ててそれでも願晴れって言わなくちゃいけないの、辛くないって否定できたらかっこいいけれどあたし出来ない

そうまでしてなんで続けるの。

――それでも、頑張ること、諦めない人たちの力になれること、大切な人のために自分が力になれることを誇りに思うから、だからあたしも頑張れる



そうね。私たち一緒ね。

出来る限りに柔らかく、最後の言葉だけを口にすると少女は頬を赤らめて嬉しそうにはにかんだ。あんな風に柔らかに笑った記憶なんてもう思い出せないほど遠い記憶だけれど。本当にあったかどうかも怪しい。けれど必死に言いつのった一途さが酷く寂しくて暖かな優しいものに思えて仕方がなかった。だから。


誰かの力になりたいと願えることこそ幸せなのだと気がつけばいい。それが叶うことを幸福というのだと、いつか心底、想い識ると良い。


大樹@ロイアイエドウィン。続いてます。

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プロフィール

ゆつき

Author:ゆつき
日々徒然。
何とか生き延びている。
うっかり突発小話ありけり。
何が出てくるか解らない。
おそらく切羽詰った精神状態で出てくる故注意が必要。


おねがいごと。
小話の続きは、コメントのほうに私が書き込んでいますので、小話への直接コメントはご遠慮くださいませ。

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