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鋼@ロイアイ

小話サルベージ3
地響きがした。まるで腸を鈍く附く、そのような音でしか無かった。
数十は居た己を囲む褐色の膚の人は各々が向けていた銃口ごと石壁に影絵の残像だけ遺し、焦跡ばかりを僅かに散らして潰えた。三千度の炎の着火地点には骸も骨の一欠も。炭すら形を遺さない。僅かに影だけが朽ちた砂壁に踊る。爆砕した岩塊がほろほろと崩れた。
これは何だ、というあまりに馬鹿げた言葉が脳裏を穿つ。戦場で、人殺しで、兵器だ。他にどのような言葉が。焼けた砂塵を踏む、軍靴がざりと厭な音をたてた。今踏んだ砂塵は、今し方蒸発したヒトの欠片かもしれないと思いながら立ち上がった。
さすがに加減の仕方が解らないと語散る。
「可燃性ガスやら燃料やらの取り扱いは一通りは身につけたはずなんだが…検体が残らないとノックス先生にどやされる」
砂礫用のカモフラージュについた灰か砂をばさばさと払う白い手袋が汚れた。描かれた赤が鮮烈なコントラストで目に写った。
「少しだけ、わかったことがあります」
先に立ち上がった黒い視線がリザを見下ろし、真っ直ぐに射る。ここがイシュバールで、これがホロコーストとだということ。『これ』は正しくないかもしれないということ。
「あなたの隣では火器より刃物を使った方が賢明です」
「なら私より前に出なければいい」
「いいえ」
首を振った。
「いいえ」
野戦用のナイフで切り取ったばかりの毛先が不揃いで首筋がちりちりした。拒絶の言葉はまるで己にこそ言い聞かせるかのように目の前の人に語りかける。
「あなたのような人の後ろに着いていくばかりなど危なくて出来ません。もしもの時は張り倒してでも前を往きます、それまで私は背中(うしろ)に控えましょう」
この身を盾に、己ごとあなたを撃つ敵を炭にし、私の屍さえも苗床に高みを目指せばいい。
子ども、大人、老人、女、男、関係なく肌の色文化人種を理由に人間に仕切りを作って生殺与奪を決定する、言葉すら費える阿鼻叫喚の世界を僅かにでも糾せるのならば、朽ちようと本望だ。人殺しのこの身には、有り余る僥倖だ。
ふと、黒い視線が哂った。色素の濃い眼球は長時間の狙撃にも太陽光から視神経を守ってくれるだろう、ふと羨ましく思った。
「殲滅区を抜けるぞ」
「はい」
この区画を抜けるということは「死んでこい」とまるで告げられたような命令内容の指令をこなし帰還するということで、つまりこの区画でゲリラ戦を仕掛けてくる約百強の人間の殲滅が科せられた任務。ほんの僅かな部下を率いて、無造作に踏み出した軍靴の一歩ごとの足跡にまた屍が積み重なる。
乾いた地に一雫の赤い潤いが蒸発しては無慈悲に消えた。鉄錆の臭いすら感じない。せめて故郷の風のもと大地にかえれ。今は骸すら踏みしめ暗闇を進むけれど、決してこの時間を無駄にはしないから。
許せ等とは殺されても口にしない。せめて自分たちを蹂躙した者どもを憎んで憎んで憎み抜いて息絶えて、そうして彼岸の果てで何もかも凪いだ海のように悲哀も恐怖も痛みも越えて眠ってくれたらそれだけで。
そう遠くない未来私たちもそちらに渡るだろう。今は、咎も責めも待ってくれ。この時間を苗床に一つでも何かを掬い上げてから逝くから。
屍すら拾われない死を迎えて、誰にも弔われず悼まれず、そんな最後が待っていようと、せめて何かを変えていく。そして、何かを残していく。あなた達の生き残りに、この国の子どもたちに。彼らが過去を振り返らず飛ぶ鳥のように真っ直ぐ行けるように。
鳥を見上げる影の一つであればおそらくはどんな咎を受けても己の生にとって福音に違いなかった。




影は空を往くものに見下ろされ
今日もまた詞もなく見送るのだ
いつの日か、今度はこの身が
見下ろされ見送るものになるとき
誰一人振り返らず空を往くものであれ




2005/12/19 初出

鋼@ロイアイ@ 影は空を往くものに見下ろされ

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プロフィール

ゆつき

Author:ゆつき
日々徒然。
何とか生き延びている。
うっかり突発小話ありけり。
何が出てくるか解らない。
おそらく切羽詰った精神状態で出てくる故注意が必要。


おねがいごと。
小話の続きは、コメントのほうに私が書き込んでいますので、小話への直接コメントはご遠慮くださいませ。

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