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F@「On the edge.」

Fの公開がいつの間にか迫ってきて気付けばもう前日ですね…!
とにかくシェリルをみたいです。幸せになってと電波を発信しつつこの山をこえたらみにいくんだぜ…!とがっと気合い入れです。
携帯からちょろっと。トライアングルに決着がつくとは思ってませんが(;´д`)「歌姫」たるシェリルを劇場では見せていただきたいです。
浅い深いまどろみからゆっくりと意識が浮上した。
歌が聞こえた。それだけだ。
虚ろな視線をさ迷わせてシェリルは室内を見渡した。
柔らかな羽根布団に薄い毛布のアイボリー。簡素な入院着は白いワンピースのように見えた。
どこからか潮彩のように歌が聞こえる。遠く近く、世界の果てから。
熱にうるんだ眼差しをゆったりと瞬かせながら緩慢な動作で巡らせた視界には心拍数を刻む機械や血圧、脳波を測定する機械がベッドわきを占領する他はがらんと空いたスペースに来客用のソファがおかれている。相部屋でなく個室で、下にも置かない扱いはシェリルの知名度と、その致死の病が人類を救うという陳腐な、しかしこの上もなく他の人々にとっては大真面目な理由から端を発するのだろう。
高い電子音が、シェリルの心音のリズムを刻む。汗ばんだ思考でFの音だと知覚した。幼い頃から持つ絶対音感、死の淵でさえ沈まぬセンス。あなたのそれはもう第六感ねといつか笑ってグレイスが言っていた。目隠しされての音当てゲームでシェリルは生まれてこのかた負けた事がない。
柔らかに笑った眼鏡の奥の眼差しと、躊躇わずシェリルを嘲ったそれが重なる。……今はもう何も考えるまい。
憎むことにも辛いことにも苦しいことにも疲れていたから、今はまどろんで眠っていたい。
そんな願望を覆す、わずかな音がまた、目覚めの時のようにシェリルを捉えた。
ゆっくりと流れる澄んだ声。柔らかで優しい。軋むように泣くように、勝利の鐘をうち鳴らせとうたいあげていた声でなく……。
ああ、風だ、海と。あのとき伸びやかに、優しくくるみこむように歌っていた時のランカの歌声。不思議な音の羅列がゆったりと不思議な言葉の羅列に重なり、柔らかに広がっていく。
ゆったりと瞬いて、熱に浮かされたまま頬が涙をこぼしてく。
痩せた腕に力を入れて上体をおこした。服の下で電極のついたコードがよじれる。ひんやりとした潤滑剤の温度はシェリルの体温と混ざって暖かい。右にある肩紐を引けば蝶々結びははらりとほどけて、落ちていった。
束になってうねるコードがはだけた胸元からとりどりの色どりで伸びている。見下ろせばかかり落ちるフェアブロンドをしどけないしぐさでかきあげて、よじれた布団の海から身を放してベッド脇に降り立った。
ぷつんと固定されたコードが抜けた。
羽根布団とコードにくるまって猫みたいに金色の髪を散らして前後不覚に眠るシェリルを、黙ってなでたぶこつなパイロットの指を知らないまま、鬱陶しいと言わんばかりに髪をかきあげて、身体中に張り付いたコードをぶちぶちとひっぱってはずした。残ったのは心拍数を刻むFの音のみ。
ソファの上に転がったプレイヤーから流れてくる歌声は、静か。
鳥のように去ったランカが唯一シェリルに残したもの。収録の時一緒に歌った。
こんなサービス滅多にしないんだからねと笑いながら、シェリルはランカのプレイヤーに、彼女が大好きだと言っていた歌を込めた。射手座のかっとんだリズム。ランカにリメイクした星の歌。そして最後にダイアモンドクレバスのアカペラを即興。
きらきらと目を輝かせて興奮に泣きそうになりながらありがとうございますと繰り返し繰り返しシェリルに礼を述べた、心のそこから嬉しそうだったランカ。私の歌は安くないわよと笑ったシェリルに目を見開いたランカに向かってぱちんとウインク。今度は私があなたにリクエストする番、ね?今度こそ緊張と嬉しさにかおを真っ赤にして呼吸困難になりそうな少女に楽しげに笑った記憶。
その記録は今も、褪せずに。
……プレイヤーを回していったのはアルトだろう。何を思ってかは知らない。けれど確実に言えるのは、このときのランカの歌声を、伸びやかな草原の風のような歌を、シェリルもアルトも愛してた。何にも縛られず、何も負わない頃の歌声を。
止まったプレイヤーをソファに置いて病室の真ん中に立つ。裸足の足に絨毯の感触。
響くFの音のメトロノームに耳を済ませて目を閉じて息をすう。苦しい。胸が心臓が圧迫される。口を開く。願う。
痛いことにも辛いことにも苦しいことにも疲れていた。もう十分だと思ってた。けれど沸き上がるこの想いの所在はどこから来るの?
たぶん、魂から。
声をつむぐ。音をおりあげる。ランカの歌声が草原をわたる風なら、シェリルの歌声はどこまでも高く上って螺旋を描いて広がっていく。高く高く、空へ、宙へ、星の果てまで。
喉を焼く痛み、肺を硬直させる痛み、落ちた筋肉で支えきれない声量はか細くて、これが自分の声なのかと激痛に耐えるように思いめいもくする。
ねえ。
……なぜあなたはいってしまったの。わたしとちがってうたえるのに。
望まれているのに。……人に、グレイスに、アルトに、家族に、友人に、シェリルのもたないすべてに望まれているのに。
ほろりと歌声に乗らなかった感情が溢れた。それ以上に、こんなにもすべてを奪われて、何もかもに疲れていてさえ望みは一つしかない自身に泣き笑いの表情で絶望する。
それでも生涯を賭けられる目標や望みがあるというのは、きっと、誰よりも幸福。

神様に、恋をしてたころは

アカペラの記憶を思い出す。笑ってたランカ。アルト。シェリル。
思う存分に歌っていた頃の私。絶望におとされて、最後に残った歌すら利用されて。それでいい、構わない。この歌が命を繋ぎアルトたちを助けてフロンティアを守れるなら。
そうだ、まだ、歌えるのだから。

こみあげる幸せと共に狭い病室の中一杯、心音のリズムを刻むメトロノームにのせて歌声を響かせた。衣装もない、ライトもステージも観衆もマイクも音源もない、今できる精一杯。苦しい肺で歌う歌う歌う。
絶望の底に歌を見付けた。魂が歌いたいと最後の望みを慟哭した。

闇の中でも光る星のような望みを絶望の弾劾で見付けた。何て幸福。
こんなにも歌を愛していたなんて。私。ずっと、ずっと。

知らなかったの。


今にも泣きそうなラブソングが、プレイヤーの笑い声をかきけすほどに、溢れんばかりの幸せな歌声で、満ちて、溶けた。







映画公開の前夜に寄せて。
シェリルとかランカとかアルト。マクロスF@「On the edge.」

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プロフィール

ゆつき

Author:ゆつき
日々徒然。
何とか生き延びている。
うっかり突発小話ありけり。
何が出てくるか解らない。
おそらく切羽詰った精神状態で出てくる故注意が必要。


おねがいごと。
小話の続きは、コメントのほうに私が書き込んでいますので、小話への直接コメントはご遠慮くださいませ。

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